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特集

組合特定問題実態調査にみる
中小企業の事業継承とM&Aの取組み

他社にはない自社独自の強みをもつことがM&A成功のポイントだ

有限会社ディー・ホープ代表取締役社長清水昭一郎氏

昭和19年、御前崎市生まれ。会社勤務を経て、53年(株)櫻屋を創業。平成16年に(株)天神屋に売却後、1年間天神 屋の顧問に就任。平成17年、経営コンサルティングの(有)ディー・ホープを設立。これまでの経験を生かして、 スーパーやレストランなど食品関係の相談に応じる一方、中小企業からのM&Aに関する相談にも精力的に対応している。


M&Aを実施した背景ときっかけ

当社は、昭和53年創業の仕出し弁当業者で、M&Aを実施した平成16年当時、年商5億5千万円、従業員90人にまで成長していた。M&Aによる会社譲渡を考えた理由は、身内や社内に適当な後継者がいなかったことである。

取引銀行に相談したところ、M&Aを知った。最初は、当社のような小規模企業を買う会社があるのか半信半疑であった。そこで、自社を客観的に見てみたいこともあり、企業評価を依頼。約3カ月かけてきっちりと資産内容などを調査してくれた。その結果、健全経営で譲渡の可能性が十分にあるという評価を得た。

ここで初めて、M&Aを真剣に考え、取引銀行を通して売却先探しを始めた。当初、県外企業3社からすぐに手が上がったが、M&A後の従業員や取引先のことを考えると、ある程度“顔が見える”会社に買ってもらいたいと考え、それらを断った。そして、取引銀行に仲介を依頼して(株)天神屋に打診。二つ返事で了承をもらった。

売却先を選ぶ上での条件や進めていく時の心境

売却先探しでどうしても譲れない条件として挙げたのは、従業員の雇用維持と取引先に迷惑をかけない、の2点。その点でも、県内の“顔が見える”企業の方が安心できた。実際に話が進むにつれ、保身から打算的になることもあったし、躊躇もあった。しかし、大手資本の傘下に入ることで経営が安定し、会社や従業員の将来のためになると信じ、そうした思いを断ち切った。

M&Aを実施したことによるメリット

最大のメリットは、従業員の生活の安定が図られたことだ。大手資本の傘下に入ったことで、従業員に将来の生活に対する安心感が生まれ、実際、売却後に3人が住宅を購入した。

自分自身も経営者としてのプレッシャーから解放され、第二の人生を歩むことができる。今まで苦労を近くで見てきた家族も、非常に喜んでくれた。

M&Aを成功させるためのポイント

まず、社長がいなくても、会社が十分に機能するための組織を作ることである。買う側の最大の不安は、買収後、前社長が経営から退くことで、組織が機能しなくなること。その不安を拭うためにも、早めの権限委譲とそれに対する人材育成を進めておく。櫻屋では、M&Aを考える数年前から権限委譲に取り組み、外部人材の登用や社員教育を進めてきた。

また、タイミングも必要だ。M&Aは企業間のお見合いであり、双方の気持ちが高まった時が最良のタイミングである。業績が良い時は売りたくないという気持ちも分からないではないが、逆に良い時の方が良い条件で売却できる可能性も高い。こうした決断力も求められる。

さらに、資産内容、収益力や社長が会社の資産を公私混同していないかなど透明性も重要となる。

そして、これらの前提として、買いたくなるような企業であることが不可欠である。規模の大小ではなく、技術力や商品力、営業地盤やブランド力など、他社にはない独自の強みを持つことが重要だ。

中央会のM&A支援に求めること

M&Aを十分に認識していない中小企業やマイナスイメージを持つ経営者も多い。したがって、M&Aありきではなく、中小企業がどのような課題を持ち、何に悩んでいるかを一緒に考えるというスタンスで、信頼関係を構築することが必要だ。そうした関係が築かれない限り、M&Aに関する相談はなかなかできない。

その上で、公的な商工団体ならではの、真に企業のためになる支援策を検討・実施してほしい。仲介会社や金融機関など民間企業は、ビジネスとして参入しているため、ある程度規模の大きな企業対象のM&Aしか手掛けないが、小規模・零細企業でも、売買ニーズは少なからずあると思われる。

静岡県中央会の取組みが、全国のベンチマークとして、成功事例になることを期待したい。