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特集

組合特定問題実態調査にみる
中小企業の事業継承とM&Aの取組み

事業承継のためのM&A

M&Aの目的

【売り手企業】

後継者がいない場合の選択肢には、(1)株式を上場して会社の所有と経営を分離させる(2)会社を廃業・清算する(3)M&Aで第三者に株式を譲渡する、などが考えられる。

しかし株式上場は、新興市場の登場などでハードルが低くなったとはいえ、上場要件をクリアできる中小企業は、そう多くはないだろう。廃業・清算には、従業員の解雇などが伴い、取引先にも迷惑がかかり、創業者に借金が残ることもある。

その点、M&Aは会社を存続させ、従業員の雇用維持や顧客・取引先との関係を守ることができる。

さらに、業界の先行きや自社の将来に不安がある企業が、淘汰される前に他社に売却、社長の思惑以上に会社が大きくなった際の新たな経営者への舵取り依頼、優良企業の傘下に入り、自社に不足する経営資源の補完など、さまざまな売却要素が考えられるが、こうした場合でも、M&Aは有効な手段となり得るのである。

【買い手企業】

買い手企業の最大の目的は、「時間を買う」ことといえる。

例えば、同業者を買収することで営業エリアや売上規模、業界シェアなどの業績拡大、異業種や周辺業種の企業買収による経営の多角化や新分野への進出などを目指す場合、自ら事業を立ち上げるよりも、人材・顧客・ノウハウ・権利などを有する既存企業を買った方が、早く事業がスタートできる。

同時に、他社の経営資源を活用することで、相当なリスク軽減にもつながる。

さらに、買収した企業の人材や技術、販売網などを本業に生かしたり、逆に、本業のノウハウを買収した企業に注入するなど、双方の経営資源を融合させることで本業との相乗効果を生み出すことも可能となる。

M&Aの成約までの流れ

M&Aでは、相手企業探しや企業評価の算定など専門的なノウハウが必要になるため、M&Aの仲介会社や支援機関等(以下、仲介会社)を利用するのが一般的である。

個々の案件や仲介会社により多少の差はあるが、以下の流れが一般的だ。(図表11参照)

図表11 M&A成約までの流れ

図表11 M&A成約までの流れ(拡大図を見る)

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第1ステップ 相談〜企業評価

【売り手企業】

まずは仲介会社への相談から始まる。M&Aに関する不明点の質問や自社の内容、売却の理由などを説明する。この段階では費用はかからず、自社の説明材料として会社案内や決算書などを持参したり、譲渡条件を事前に検討しておく。

正式に支援を依頼する場合は、仲介会社とコンサルティング契約を結ぶ。この際に、企業評価や相手企業探しのための実費として着手金を支払うことになる。

契約締結後、仲介会社では、決算書や会社案内、定款、株主名簿、販売・仕入実績、組織図、役職員名簿など資料の提供を受け、売り手の企業評価を行う。

第2ステップ 候補企業の選定〜基本合意書の締結

【売り手企業】

仲介会社では、買い手企業候補の選定や買い手への提示用資料の作成を始める。資料には、買い手に打診する際の匿名の「簡易企業概要書」や詳細内容を説明する「詳細企業概要書」がある。

【買い手企業】

買い手は、買収ニーズを仲介会社に伝えておくことで、条件に合致した案件があれば、簡易企業概要書による説明を受ける。その企業に興味を持った場合は、仲介会社と秘密保持契約を結び、詳細企業概要書などを基に買収を検討していく。具体的に話を進める場合には、売り手同様に着手金を支払い、仲介会社とコンサル契約を結ぶ。

【売り手企業・買い手企業】

売り手、買い手が双方ともコンサル契約を結び、具体的な進展を望むと、双方の社長同士のトップ会談がセッティングされる。同時に、工場や店舗、事務所の見学を実施することもある。

トップ会談で相互に好感を持てば、買収価格や役員の処遇など細かな条件交渉に入り、条件がほぼ合意に達すると基本合意書を締結する。これは、よほどのことがない限り最終契約を結ぶことを意味する。

第3ステップ 買収監査〜クロージング

【売り手企業・買い手企業】

買収監査とは、簿外債務や不良債権など買い手の買収後のリスク軽減を図るための作業で、買い手企業の弁護士や会計士などの専門家が実施する。売り手企業は、情報を全て開示し、監査に協力する一方、この時点ではまだ社員などには発表していないため、不審に思われないよう配慮も必要だ。

その後、買収監査の結果を反映した最終条件を決定し、最終契約書への調印、株券と買収代金の授受、代表取締役の交代などを行い、クロージングとなる。

なお、売り手企業が最初に仲介会社に相談してから最終的な調印までの期間は、平均して半年から1年程度だが、これは相手企業がスムーズに見つかった場合。1年以上要することや最後まで相手企業が見つからないことも多いという。このため、仲介会社は情報やネットワークを駆使して、条件の合う企業同士をマッチングさせることが、大きな役割といえる。

仲介会社への成功報酬額は、仲介会社により異なるが、一般的には譲渡資産総額の1〜5%ほどである。