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富士の叫び

新たな時代に求められるリーダー像

賑やかな蝉の鳴き声にあわせるかのように、いよいよ北京オリンピックが始まり、国威と名誉を賭けたそれぞれの戦いの火蓋が切って落とされた。フェアで夢と希望に溢れる熱戦を期待したい。

過日、野茂英雄投手の引退が大きく報じられた。日本人メジャー選手のパイオニアとして、我々に努力すれば拓けることを立派に証明してくれた。自分の夢を追求し、常にチャレンジする姿勢に勇気づけられた人も多いだろう。

「悔いの無い野球人生だったという人もいるが、僕の場合は悔いが残る」が引退の弁だという。この率直な言葉に、彼の野球に賭けた熱い姿勢や思い入れの強さを改めて感じた。

こうしたスポーツ界の清清しい話題に対し、一向に納まらない隠蔽や偽装等の不祥事の発覚には驚愕する。経営者から危機意識や使命感が完全に欠如してしまったかのようである。一旦失った信用・信頼の回復は、一朝一夕では不可能である。最悪の場合は、企業生命が絶たれることを肝に銘ずるべきである。

今、我々は人口減少社会、高齢化社会という新しい時代を迎えつつある。それは、消費の減退や経済の縮小をもたらし、企業や業種の枠を越え激しく競う、格差の広がる経済環境である。我々は今後もこの時代を生き残っていかなければならない。

旧日経連の会長を務めた鈴木永二氏は、著書の中で変革期を乗り切るリーダー像について、「経営者に必要な資質とは、第一に社会に貢献することを使命と考える倫理観。第二に広い視野、グローバルな視点と歴史観を持つこと。第三に人間を組織する根源としてのリーダーシップ、指導者としての力量である」と説いた。20年程前の著だが、今、まさに求められるリーダー像であろう。新たな時代のリーダーは、この意味を熟慮して欲しい。

最大のスポーツの祭典であるオリンピックに思いを馳せつつ、目先の利益追求だけに汲々とし、経営の本質を見失ってはなるまいと強く心に念じ、この進退両難の時代を乗り切ることが肝要である。

静岡県中小企業団体中央会・会長 井上 光一