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準特集

2009年版 中小企業白書にみる
中小企業における知的財産の保護・活用

中小企業の業況がかつてない厳しい状況にある中、2009年版の中小企業白書では、中小企業がその強みである創造性や機動力を一層活かし、直面する苦境を乗り越えていくための視座として、中小企業のイノベーションを採り上げ、分析している。

とくに知的財産の戦略的な保護と活用は、中小企業のイノベーションを支える重要な経営資源であり、欠かすことのできない要素である。

そこで今月号では、白書を基に中小企業が知的財産を効果的に保護し、活用していくための戦略や課題など、そのポイントを紹介する。

資料提供:中小企業庁

知的財産権を巡る動向と中小企業の知的財産活動

日本の特許出願件数は、1998年以降毎年約40万件に達するなど、世界一の水準にあったが、2006年に米国に抜かれ、現在は世界第2位となっている(図表1.)。

日本の特許出願が最近、減少傾向にあるのは、企業が守りを主眼とする大量の特許出願・取得から、中核となる事業を展開する上で有益な特許の取得へとその戦略を転換する動きが増えつつあるとともに、グローバル化の進展に伴い海外への出願を重視し、国内出願は厳選する考え方が強まりつつあることも背景にあると考えられている。

以上のように減少傾向にあるとはいえ、依然我が国の特許出願件数は高い水準にあるが、内国人出願に占める中小企業の比率は、出願件数ベースで約12%に止まっている。法人企業が生み出す付加価値額のうち中小企業が寄与している割合が約半分であることからすると、特許出願における中小企業の比重は小さいように思われる。

[図表1.]5大特許庁における特許出願件数の推移

〜 我が国の特許出願件数は2006年までは40万件を超える水準で推移していたが、現在は、40万件を下回り米国に抜かれ世界第2位の出願件数となっている 〜

資料:特許庁「特許行政年次報告書2008年版」(2008年)

中小企業の特許出願の現状

三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が実施した「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」(「市場攻略と知財調査」)によると、特許出願の総件数に占める中小企業の割合が小さい理由の1つとして、中小企業は自らの技術やノウハウを特許の出願によって保護するのではなく、営業秘密として保護している可能性が考えられる。

特許庁の「知的財産活動調査」をもとに、大企業と中小企業が、2006年度に企業内で発明・考案したもののうち、企業秘密・ノウハウとしたものの割合を示した図表2.によると、中小企業の当該割合は大企業のそれの約3倍を示している。

[図表2.]企業内で発明・考案されたもののうち企業秘密・ノウハウとしたものの割合

〜 中小企業は大企業よりも約3倍高い割合で、企業秘密、ノウハウとしている。また、業種ごとに特徴がみられ、特に情報通信業、輸送機械工業、電気機械工業といった業種において企業秘密・ノウハウとしている企業割合が高くなっている 〜

資料:特許庁「平成19年知的財産活動調査」再編加工(2008年)

(注)

  1. 企業内で発明・考案されたものとは、自社内で発明・考案されたもののうち、出願したしないにかかわらず、知的財産部門又は知的財産担当者に届出されたすべてをいう。
  2. 「企業秘密・ノウハウとした件数/企業内で発明・考案されたものの件数」にて割合を算出している。
  3. ここでいう大企業とは、中小企業基本法に定義する中小企業以外の企業をいう。

このように、中小企業が特許出願を最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護する理由として「技術流出につながる恐れがある」、「コスト負担が大きい」などを挙げる企業が多く、特に「コスト負担が大きい」という理由が大企業に比べて顕著に多いことが分かる(図表3.)。

[図表3.]特許出願を最小限にとどめ、営業秘密として保護する理由

〜 中小企業は、大企業に比して技術流出やコスト負担を理由に「特許出願は最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護」している企業の割合が相対的に高い 〜

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)

「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」(2008年12月)

(注)

  1. 「 特許出願は最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護している」と回答している企業のみ集計。
  2. ここでいう大企業とは、中小企業基本法に定義する中小企業以外の企業をいう。
  3. 複数回答のため合計は100を超える。

下請企業の知的財産活動の現状

企業1社当たりの企業内で発明・考案された件数は、下請企業と非下請企業でほぼ同水準だが、下請企業1社当たりの特許権・実用新案権の出願件数は、4.97件で、非下請企業の5.93件に比べ少ない。他方、下請企業が、企業内で発明・考案したもののうち、企業秘密・ノウハウとしたものの割合(4.58%)は、非下請企業(2.58%)よりも高い。以上から、下請企業は、非下請企業と比べて、特許出願よりも、「技術流出」を警戒し、「企業秘密・ノウハウ」としての保護を志向する傾向があることが分かる。

営業秘密については、不正競争防止法により一定の法的保護がなされており、社内での管理体制を強化していくことが、技術流出の防止の観点から重要である。

中小企業の特許取得及び利用の状況

特許保有の総件数に占める中小企業の特許保有件数の割合は、17.6%にとどまるなど大企業に比べて特許の取得企業の割合が低く、特に下請企業は低い。

一方、特許の利用率は、ほとんどの業種で大企業よりも高い。また保有特許の利用状況は、大企業は未利用だが、防衛目的で特許を保有している割合が高いなど、大企業の特許戦略の特徴が見てとれる。

中小企業は、自ら開発した技術等を厳選して、特許の出願を行っているため、特許出願件数は少ないものの、特許権を取得した以上は有効に利用していると考えられる。なお、大企業の保有特許の1割が開放特許であることも注目に値する。中小企業が、イノベーションを実現する上で、こうした大企業の開放可能な特許を有効に活用していくことも重要な方策であろう。