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準特集

2009年版 中小企業白書にみる
中小企業における知的財産の保護・活用

中小企業の知的財産活動と企業業績の関係

特許を保有している中小企業(製造業)は、保有していない企業に比べて、従業員1人当たりの営業利益が大きい傾向がある。

研究開発等を通じ、保有特許の対象である独自の技術や製品を開発した中小企業は、利益率が高い傾向にあり、また、海外特許を含めた特許制度が、中小企業の知的財産の侵害を防ぎ、利益率の維持に寄与している可能性を示唆している。

オープンイノベーションに向けた中小企業の取組

前述のとおり、大企業の特許の1割は未利用で、他者へ開放可能な特許である。また、特許庁の推計では、国内特許数に占める未利用特許はほぼ半数に上るとされる。

「市場攻略と知財調査」によると、約3割の中小企業が開放特許に関心を示すなど、経営資源の乏しい中小企業にとっては、こうした開放特許を含め、外部の知識や技術を有効に活用することも、事業戦略を立てる上で重要な選択肢の1つである。

また、他社技術の活用や他企業と連携して技術開発を行うなどいわゆるオープンイノベーションへの関心が世界的に高まっている中、中小企業による知的財産の活用はますます重要となっている。

中小企業は、大企業に比べ技術移転を受けている割合が相対的に低いものの、技術移転、特に「国や公設の試験研究機関」、「大学」、「大手企業」からの技術移転に関心が高い(図表4.)。

[図表4.]関心のある技術移転元(特許取得の有無別)

〜 特許取得企業は、「国や公設の試験研究機関」や「大学」からの技術移転に関心が高くなっている。また、特許取得したことがない企業については、「大手企業」からの技術移転に関心が最も高くなっている 〜

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」(2008年12月)

(注)

  1. 中小企業のみ集計。
  2. 複数回答のため合計は100を超える。

大学からの技術移転については、大学の技術移転機関(ILO)等による情報提供や仲介の機能が重要である。現在、ILOを通じた技術移転先として中小企業が約半分を占めており、今後も、中小企業が大学の技術を有効に活用していくためには、その仲介者として、産学連携の窓口スタッフが果たす役割は大きい。

知的財産権の取得による効果

中小企業が、新たな製品・サービスの開発等のために、知的財産の創出、保護、活用を組み合わせた戦略をどのように構築・実行し、収益拡大に結びつけていけばよいのか。過去10年間に収益に大きく貢献した商品を「ヒット商品」と呼ぶこととし、中小企業の知的財産活動とヒット商品との関係をみていく。

知的財産活動とヒット商品の関係

ヒット商品(過去10年以内に企画・開発に着手した案件の中で、収益に大きく貢献した新技術・新商品・新サービス)に関する知的財産権の取得の状況について見ると、大企業は特許権等の知的財産権を取得していない企業が1割強にとどまるのに対し、中小企業では5割弱と、特許権等を取得していない企業が多い(図表5.)。

また、特許を取得していない中小企業でも、技術移転を受けている企業は、受けていない企業に比べてヒット商品が生まれている企業の割合が高い。

[図表5.]ヒット商品における知的財産権の取得状況

〜 大企業はヒット商品に知的財産権を取得していない企業が1割強にとどまる一方、中小企業は5割弱であり、知的財産権を取得していない企業が多く見られる 〜

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」(2008年12月)

(注)

  1. ここでいうヒット商品とは、「過去10年以内に企画・開発に着手した案件の中で、貴社の収益に大きく貢献した新技術・新商品・新サービス」のことをいう。
  2. ここでいう大企業とは、中小企業基本法に定義する中小企業以外の企業をいう。
  3. 複数回答のため合計は100を超える。

知的財産権の取得による具体的な効果

図表6.は、企業が特許権の取得の効果に関してどのように認識しているのかについて、企業の従業員規模別に示したものである。規模の小さい企業ほど「信用力を得ることができた」、「新規顧客の開拓につながった」と回答した企業の割合が高い傾向にある。また、中小企業が積極的に特許権を取得していくことが、信用力を高め、新規顧客の開拓など売上を増大させる面でも重要であることも示唆している。

[図表6.]ヒット商品において知的財産権を取得したことによる効果(従業員規模別)

〜 規模の小さい企業ほど、「信用力を得ることができた」、「新規顧客の開拓につながった」という企業割合が相対的に高い 〜

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」(2008年12月)

(注)

  1. ここでいうヒット商品とは、「過去10年以内に企画・開発に着手した案件の中で、貴社の収益に大きく貢献した新技術・新商品・新サービス」のことをいう。
  2. ヒット商品が生まれたと回答した企業のみ集計。
  3. ヒット商品に知的財産権を取得したと回答した企業のみ集計。
  4. 中小企業のみ集計。
  5. 複数回答のため合計は100を超える。

図表7.は、商品の開発からヒット商品になるまでの段階を3つの期間に区切り、それぞれの期間における特許権の取得が業績向上にどのように影響したかについて示したものである。

いずれの期間においても、特許権の取得がその後の業績向上に「大いにつながった」、「ややつながった」という中小企業が7割から9割に達しており、中小企業は特許権の取得により業績向上を図ることができると考えられる。

また、初期の段階から特許権を取得している中小企業ほど、業績向上につながったという割合が大きい。特許権以外も含め、知的財産権を早期に取得することが、中小企業にとって重要な戦略であることを意味していると考えられる。

知的財産権の取得のタイミングと効果は、知的財産権や効果の種類によって様々であり、中小企業は、研究開発から商品化までのそれぞれの事業戦略に最も適した知的財産戦略の構築を検討することが必要である。

なお、ヒット商品に関する知的財産権の取得の有無と、当該ヒット商品の開発に要した期間との関係を見ると、ヒット商品の開発に長い時間がかかった企業ほど、特許権を取得しているという傾向にある。

一般に、商品開発に時間を要するほど開発費用が大きくなると考えられる。そのため、その商品開発は中小企業の業績に大きな影響を与える重要なもので、また、その多額の費用を回収することから、中小企業が特許権等による保護を図る傾向にある可能性を示唆していると考えられる。

[図表7.]ヒット商品における特許取得の時期と業績向上への影響

〜 初期の段階から特許取得している企業ほど、その後の企業業績の向上につながるという企業が多い 〜

資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」(2008年12月)

(注)

  1. ここでいうヒット商品とは、「過去10年以内に企画・開発に着手した案件の中で、貴社の収益に大きく貢献した新技術・新商品・新サービス」のことをいう。
  2. ヒット商品が生まれたと回答した企業のみ集計。
  3. ヒット商品に特許権を取得したと回答した企業のみ集計。
  4. 中小企業のみ集計。