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特集

第54回中小企業団体静岡県大会
検証!共同化戦略
変革スピードに対応する中小企業組合

厳しい時代こそ、協同組織を活かせ

基調講演では、明治大学政治経済学部森下正教授が組合による共同事業の必要性を語った。

森下教授は、

「規制緩和により、多くの業界で参入規制が撤廃されたことで、急速に弱肉強食、優勝劣敗が進み、業界秩序が崩壊。供給過剰、過当競争、低価格化が日常化している。もはやイノベーションやカイゼン(改善)だけでは対応に限界があり、一社一業では生き残ることはできない」と指摘した上で

「こうした時代こそ、中小企業組合は組合理念の原点に立ち返り、自助努力と相互扶助の精神を再確認し、共存・共栄と協創・協働の理念の下、自主、自立的に共同事業を実践しなければ、資本と労力に勝る大企業と伍して戦っていくことは不可能だ」と組織の重要性を説いた。

また、県内の中小企業組合に対する調査結果を示し、「積極的に組合に参画している企業ほど、そうではない消極的な企業よりも、組合が提供する共同事業による成果が高くなる。組織への関わりに消極的な組合員は切り捨てるのではなく、組織集団の基本行動原理を身につけさせ、引き上げることが重要だ」と強調。

停滞する共同事業については、「できない理由を探す前に、共同事業として何ができるのかや停滞の背後の原因(真因)を探ることで必要な共同事業が見えてくる」との視点を提示した。

そして「組合の共同事業には限界はなく、時代のニーズがかつての事業を再び必要とする場面も必ずくる。組合に参加する中小企業自身が、組合の力を信じ、自ら参画意欲を燃やし続けて、共同事業を活性化させる。と同時に、自社の発展に直結させる自助努力を続けることが絶対に必要だ」と訴えた。

 

厳しい時代こそ、協同組織を活かせ

明治大学政治経済学部 森下正教授

1965年埼玉県出身。明治大学大学院修了後、同大学政治経済学部専任講師、同助教授を経て、2005年から現職。専門は中小企業論、地域産業政策論。経済学博士。

規制緩和と自由競争の恐ろしい現実

規制緩和により、多くの業界で参入規制が事実上撤廃されたことで、急速に弱肉強食、優勝劣敗が進み、業界秩序が崩壊した。供給過剰、過当競争、低価格化は日常化し、経済的社会的格差の拡大、寡占化・独占化の進行と地域経済の崩壊などが一斉に始まった。また、金融経済至上主義は、実体経済をはるかに上回るバブル現象を引き起こし、実物経済の現場を壊すことで肥大化している。さらに世界同時株安からも分かるとおり、金融経済は突然死する可能性を常に秘めている。

こうした事態の解決策として、新分野進出や新事業創造などイノベーションやカイゼン(改善)が奨励され続けてきた。しかし、技術的なイノベーションが困難な業界や中小企業一社による改善活動にも限界がある。一社一業で生き残ることが極めて難しい時代が現代なのだ。

中小企業が対応しなければならない課題

中小企業が生き残るために対応しなければならない課題には次のようなものがある。

第一は「知識社会への対応」である。特に経営者はマネージメントに関する知識を貪欲に吸収し、多くの引き出しをもつことが重要だ。次々に現れる専門知識に対応することができなければ、頭は凍る。

第二は「人口減少社会への対応」だ。人口減少で、国内市場は縮小する。とくに内需に依存する傾向の高い中小企業にとっては死活問題となる。いずれ内需頼みの経営は立ち行かなくなる。だが、人口減少から国が貧しくなるか、といえば必ずしもそうではない。人口規模に見合った経営をすることで乗り切ることは可能だ。

第三に「高速ネットワーク(交通網)への対応」が挙げられる。交通網が整備され、車で2時間圏内の業者、想定外の地域の業者との競合が予想される。商圏や営業圏、生活圏の急拡大は、両刃の剣である。

第四は「規制強化への対応」である。急速に規制緩和が進む一方で、安全や環境などに対する規制はますます厳しくなることは間違いない。だが、同時に満足、安心、安全、健康に配慮した商品やサービスを生み出すことで、新たなビジネスチャンスも生まれるのだ。

共同事業実施による効果は大きい

中小企業組合は組合理念の原点に立ち返る必要がある。自助努力と相互扶助の精神を再確認し、時代に合わせた共存・共栄と協創・協働の理念の下で、自主、自立的に共同事業を実践しなければ、資本と労力に勝る大企業と伍して戦っていくことは不可能である。

県内10地域の中小企業組合に対し、調査を行ったところ、共同事業による成果として挙がったのは受注拡大、物流コスト削減、新製品の開発、新市場創出、調達コスト削減などであった。注目すべきは、「コスト削減」と「新たな取組み」が上位を占めていることだ。両者は車の両輪の関係にあり、同時に行うことで相乗効果が生まれる。また、当然のことだが、組合組織への関わり度合いによってもその効果は大きく異なる。積極的に組合組織に参画している企業ほど、そうではない消極的な企業よりも、共同事業による成果が高くなる。組織への関わりに消極的な組合員を切り捨てるのではなく、組織集団の基本行動原理を身につけさせ、引き上げることが重要だ。

時代のニーズがかつての事業を再び必要とする

組合による共同事業ができない理由を探す前に、共同事業としてできることを探し、始めてみることこそ、今後の組合に求められる取組みだといえる。

組合事業停滞の原因から必要な共同事業は見えてくる。表面的な原因ばかりを追究するのではなく、発生している現象の背後の原因(真因)を探らなければ、解決策は見えてこない。

今後ますます、コストダウンや信用力向上などに繋がる共同事業の必要性は高まってくるだろう。組合の共同事業には限界はなく、時代のニーズがかつての事業を再び必要とする場合も必ず発生する。組合が今後も多くの中小企業の活路を拓く協同組織として機能し続けるためには、組合に参加する中小企業自身が、組合の力を信じ、自ら参画意欲を燃やし続けて、共同事業を活性化させることだ。と同時に、自社の発展に直結させる自助努力を続けることが絶対に必要なのである。