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専門家の眼

平成20年度税制改正と中小企業等への影響

公認会計士 青木隆知
静岡市葵区鷹匠3丁目16-9
054-248-8881

Q 平成20年度税制改正の主な改正事項について解説して下さい。また、この中で中小企業等への影響も併せて教えて下さい。

A平成20年4月1日より、平成20年度の税制改正が施行される予定でしたが、この原稿の段階では、ねじれ国会の影響で法案が未成立の状況です。

提出案をもとに平成20年度の税制改正について検討することにいたしましたが、法律が実際施行される場合には、若干の修正も予想されますので、その後の成り行きに十分注意して、臨んでいただきたいと思います。


法人税関係

〈1〉中小企業関係税制

今年の主要な改正は、情報基盤強化税制、教育訓練費税制、エンジェル税制であり、中小企業全般に影響を及ぼすと思われる抜本的な改正は特になかったものとなっています。

◎情報基盤強化税制

資本金1億円以下の中小企業や協同組合などが取得した300万円以上のサーバー用のシステムや一定のソフトウエアなどについては、基準取得価額の50%の特別償却と基準取得価額の10%の税額控除を一定要件のもとに選択適用できる制度が、2年間延長されるとともに、対象設備の取得価額の最低限度が70万円に引き下げられました。

最低取得基準金額が引き下げられたことにより、この税制の活用の機会が増え、設備やソフト更新の時期を早めることが期待されています。

◎教育訓練費税制 

人材育成のために設けられていたこの税制は、適用期限が平成21年12月31日までに開始する事業年度まで1年間延長されることとなりました。

この措置は、資本金等が1億円以下の中小企業か農業協同組合等に限られ、大企業は適用がされないこととなっています。

従来の制度は、各事業年度の教育訓練費の額が比較教育訓練費の額を超える場合には、超える部分の25%が法人税額の10%相当額の範囲内で控除できるものでしたが、今回の改正では、労務費に占める教育訓練の割合が0.15以上の場合に一定の特別控除割合の計算を行い、その事業年度の法人税額の20%相当額の限度内で控除できるよう増額されました。

◎エンジェル税制 

ベンチャー企業育成のための投資促進税制で、従来の制度は特定中小会社が発行した株式を取得した場合には投資額をその年の株式譲渡益から控除でき、またその株式を譲渡して損失が生じた場合には3年間の繰越控除が認められること、特定株式の譲渡所得の一定要件のもとでの1/2圧縮ができることとなっていました。

今回の改正では、特定株式の譲渡所得の1/2圧縮措置が廃止され、新たに特定中小企業に出資した場合には1000万円を限度として総所得金額の40%の範囲内での寄付金控除が適用されることとなっています。

なお、同族会社の同族株主がその特定中小会社が発行した特定株式を取得する場合にはこの制度は適用されないので、注意が必要です。

◎減価償却制度、耐用年数の改正

機械及び装置の耐用年数が、今までの390区分から55区分に変更され、簡素化されました。

改正の特徴としては設備の種類ごとに定められていた耐用年数を見直し、業種ごとに一律に耐用年数を適用することになったことです。

従来に比べて、迅速簡潔に耐用年数の決定が可能となっていますが、必ずしも耐用年数が短縮されたものばかりではなく、機械装置によっては、業種で適用されるため、逆に長くなっている場合があります。

設備の物理的な使用年数に特に変化はないものの、技術革新の激しい現下の状況を考えると機能的陳腐化は著しいものがあり、全般的に、耐用年数の大幅な短縮や取得時点での損金算入等の措置の拡大が望まれるところです。

◎研究開発税制の見直し

適用しようとする事業年度に支出した試験研究費の総額の8〜10%、中小企業の場合には12%の税額控除ができる措置はそのままですが、比較研究費の額を超えた場合の特別税額控除割合の制度が、適用期限が到来していたため、2年間延長されています。

◎工事進行基準の見直し

会計の国際化が進む中で、工事進行基準の強制的な適用が実施されることになりましたが、この改正は平成21年4月1日以後開始の事業年度から適用が義務付けられていますが、それ以前での早期の適用も可能となっています。

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個人所得税関係

〈1〉金融証券税制

◎上場株式等に係る配当の源泉税 

支払時に国税地方税合計で10%源泉徴収されていましたが、平成23年からは所得税住民税合計で20%の検束課税に戻ることとなっています。

◎上場株式等に係る譲渡所得

金額に関係なく申告不要でしたが、平成21年、22年については、配当等の金額が年間100万円を超える者については申告が必要となっています。

◎申告分離選択課税制度

上場株式等に係る配当等の課税については、申告分離選択課税と総合課税を選択することになっています。特定口座における源泉徴収等の管理ができることとなりました。

◎上場株式等に係る譲渡所得の損失と配当等との損益計算書通算、繰越控除

上場株式等に係る譲渡所得に対する国税地方税10%の軽減税率は平成21年より原則に戻され20%となりますが、21年と22年については、譲渡所得金額の500万円以下の部分については、国地方合計10%の軽減税率が適用されることとなっています。

平成21年から申告等一定の条件の下に、上場株式等に係る配当等と譲渡所得等の損失との損益計算書通算制度が創設されました。

地方税関係

◎法人事業税の税率改正

期末の資本金等により事業税の所得割の税率が区分されているが、税率がおおむね40%前後引き下げられています。

◎地方法人特別税の創設

事業税の所得割の税率は引き下げられましたが、新たに地方法人特別税としての、いわゆる外形標準課税が全面的に適用されることになりました。

この制度は、平成20年10月1日以後開始事業年度から国税として適用創設され法人事業税を課税標準とされています。

これに伴う地方法人特別譲与税は平成21年度から譲与されることとなっています。

法人の事業形態によって税率構造は違いますが、普通法人の場合は、具体的には、付加価値額、資本割額所得割額の合算額によって148%の税率で、所得割額によって法人事業税を課税される法人の場合には法人所得の81%の税率を乗ずることになっています。

◎その他

個人住民税の寄付金税制の適用下限額の引き下げ、税額控除方式などの改正が行われています。

地方公共団体に対する、いわゆる[ふるさと納税]が創設されました。

新公益法人に対しての課税関係の取扱が明示されました。

不服申し立て制度や事前照会制度についても手当されています。

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今後の予定されている改正

〈1〉相続税法の見直し

相続税納税者数の拡充、基礎控除の引き下げ、税率構造の検討、財産評価基本通達の見直し等が検討されています。

〈2〉事業承継税制

非上場株式等を相続等により取得した場合の納税猶予制度の創設が検討されています。

〈3〉取引相場のない株式評価方法の見直し

取引相場のない株式の評価における純資産価額方式における営業権の評価の見直しが行われます。

今後の展望と課題

種種の要因から現在は景気予測が難しく、国として予算に基づく安定した財政政策がとりにくくなっており、景気変動や各国の状況等をにらみながら、税制改正も行われていくでしょうが、景気変動如何にかかわらず、税が財政健全化の柱であることには変りありません。

全体的には増減税を織り交ぜながら、実質的には、広い範囲に影響を及ぼす税制関係については厳しく、特定対象者の時限立法的な特別措置等は減税が引き続き形を替えて行われていくものと思われます。

財政安定化のためには時期を見計らっての間接税の柱である消費税の引き上げも検討課題となっていくものと思います。

中小企業や個人における税制はこうした状況から考察していくと生活や経営を直撃しかねない状況には変わりなく、相当の税負担をはたしながら、企業や組合活動をより円滑に活発に行っていく上で、税制の研究は欠かせない課題であるといえます。