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特集

第55回 中小企業団体静岡県大会
イノベーション! 組合の挑戦
〜ものづくり、ひとづくりそしてまちづくり〜

地域産業への直言!
〜「ものづくり」「ひとづくり」「まちおこし」の現場から〜

一橋大学大学院 関 満博 教授

1948年、富山県出身。成城大学大学院卒業後、東京都商工指導所勤務、東京情報大学、専修大学助教授を経て、2000年より現職。専門は産業論、中小企業論、地域経済論。

三つに分解された日本の村

2000年に約3250を数えた我が国の市町村の数は、「平成の大合併」を経て、約1800に再編された。中でも村の数は、約600から約190へと3分の1以下に大きく減少し、日本から「村」がなくなる日も近いとさえいわれている。

この過程で、日本の村は3つに分解された。

第1は、強い「自立」の意志をもち、自ら一村での運営を選択した「自立した村」である。

第2は、「取り残された村」である。その多くが危機的な財政状況にあり、周辺の市町村が合併の対象として受け入れてくれなかった場合が少なくない。

第3は、合併に「飲み込まれた村」である。

以上それぞれが課題を抱えているが、今後の舵取りが一番難しいと思われるのが、新たな合併市の辺境にあることが多く、問題が見えにくい「飲み込まれた村」であろう。

「自立する村」としての選択

岡山県にある人口約1000人、高齢化率40%の新庄村は、近隣の8町村とともに合併協議会にも参加していたが、途中で離脱し、自立を選択した。その背景には次のことがあった。

合併により「辺境」になることへのおそれ、村内に水力発電所があり、一定の保証金=収入が見込めたこと、国民健康保険が赤字ではなかったこと、そして村の未来を「考え続ける人」がいなくなることへの危惧、である。

新庄村では、女性グループが村の加工場を使って、モチや漬物、味噌、醤油、佃煮等を作り、道の駅に出品。さらに全国各地にそれらを宅配するなど、何らかの「仕事」に携り、生き生きと活躍しているのである。

合併により「辺境」に置かれ、「飲み込まれた村」では、「思い」も「誇り」も失われつつある。こうした「思い」をどのように汲み上げていくのかが、地域社会を考える上で極めて重要となる。

日本を変える「3点セット」

いま、日本を変える「3点セット」として注目されるのが、中山間地域の農村の女性たちが展開する「農産物直売所」、「加工場」、「農村レストラン」である。

「農産物直売所」は、20年ほど前から全国の中山間地で広まり、現在、全国で約13000ヵ所、売上は1兆円にのぼる。年率10〜15%の成長を続ける我が国では数少ない成長分野のひとつである。

この直売所のもつ意義は、2つある。

第1の意義は、農村の女性が自分名義の口座=通帳を持ったことである。売上が“成果”としてストレートに伝わるという喜びは、大きく、さらなる意欲につながる。

もうひとつの意義は、生産者と消費者が直接結びついたことだ。直売所は生産者である女性が交代で立つことが多い。そこで、消費者との間にコミュニケーションが生まれ、買う側の意見を活かし、工夫を加えることで、より消費者の求める商品を供給することが可能となる。

こうした直売所の経験を重ねるに従い、残りの野菜を加工しようと生まれたのが農産物の「加工場」であり、地元の農産物を利用した「農村レストラン」である。

これらが、新たな雇用を生み出す。「農産物直売所」は農村の「商店」、「加工場」は「工場」、「農村レストラン」は「飲食店」であるとともに、中山間地域に希望や勇気を与える「3点セット」なのである。

注目される「農商工連携」

我が国では「産業」という場合、全く異なった3つの概念が存在していた。

第1は、経済産業省が扱う繊維や電機、自動車、ITなどおなじみの「産業」群、第2は、農林水産省の扱う「農林水産畜産業」という領域、そして、第3は、国土交通省の「まちづくり」=ハードの建設を主体としたものである。この3つの「産業」はそれぞれが専門職化し、全く接点がないまま存在してきた。

こうした中、昨年、「農商工連携法」が施行され、経済産業省と農林水産省が主体となった農林水産部門と商工業部門の連携が模索され始めた。従来型の縦割り行政による行き詰まりを改める施策として注目を浴びている。

日本の産業が進むべき道とは

モノは素材・開発から加工・組立を経て消費に向かう。従来、日本の製造業が得意としてきたのは「加工・組立」であった。この分野で日本は世界をリードし、「安価で良質」なものを世界に供給し続けてきた。

しかし1990年代以降、中国を始めとする新興国がこの分野で驚異的な低コストと品質向上を実現していく。

この結果、日本の製造業の基幹部分はいっせいにアジア、中国へと生産移転を進め、日本に残ったのは、川上の「素材・開発」と川下の「消費・サービス」となった。

コスト競争の領域では、日本の出る幕はない。だが、素材が良ければ、また開発が優れていれば価格競争に巻き込まれることはない。また、サービスは最大の付加価値をもたらす。

今後日本は、素材や用途開発といった「川上」部門と消費に近い領域でのサービス分野に特化した「川下」産業を育成することで、グローバル化の著しい国際競争を生き残っていくことができるのである。