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・・・経営 経済
「時短と月給」
求められる“実”を採る経営姿勢
大和シンク・エージェンシー
取締役社長 石 橋 達 也


 新年度には、年末や年賀挨拶と同じように三月三一日と四月一日に関係諸官庁に挨拶に出向く昔気質で律儀な方もいるが、昨今の世相では、若い方などはそのような風習も知らず、むしろエープリルフールではないかと笑ってしまうかも知れない。一つのケジメであろうが、それよりも稼働時間を惜しむ多忙な経営者が増えている。
 これは、この四月一日から大部分の中小企業が対象となる「週四〇時間労働制」も影響している。
 動かなくては稼げない。民間中小企業にとって、稼働時間が減ることは、それだけ短くなった時間を有効に活用する必要があるからで、形式的な挨拶などはだんだん減っていくだろう。また、最低必要なものは除きそうした実のない形式が要求されることも少なくなってきた。
 社員九人以下の商業、映画・演劇業、保険・衛生業と接待・娯楽業以外の全ての中小企業は「週四〇時間労働制」としなくてはならない。
 単純に考えると、今まで「週四四時間労働制」だったものが「四〇時間」と十%も労働時間数が減るのである。
 労働生産性が十%アップするか、賃金を十%減額できればいいのだが、そう簡単にできるものではない。
 一カ月単位で計算していた労働時間計算を一カ年単位(あるいは一カ年以内の数カ月期間)の『変形労働時間制』に変更する対策は、数字の辻褄合わせに過ぎない。
 本当の労働時間短縮対策とは、労働生産性を上げるため、作業効率を高める新規の機械や設備投資をするとか、職場環境の改善とか、あるいは「ムリ・ムダ・ムラ」を取り除く作業工程の改善とかに取り組まなくてはならない。
 一方、賃金は「ノーぺイ・ノーワーク」の計算方式がより重要になる。それは職務能力とか、成果実績主義に基づく賃金決定要素の変更で、どちらかというと「時間=賃金」主義からの脱皮である。職能資格人事制度・賃金や年俸制賃金や賞与支給計算方式の見直し等が盛んなのはそうした背景があるからである。
 しかし、一方で労働基準法は時間による賃金支払いを求めており無視はできない。
 そこで、労働時間が短縮された分だけ賃金を「引き下げ?」られないかという要望が頭をもたげる。
 時間給や日給なら休みが増えた分だけ自動的に「引き下がる」。それとて生活がかかる社員にしてみると休日増は棚に上げ、保証を求める意識が強い。
 月給者はどうか? ある団体では労働省に問い合わせて、「労使の話合いができて合理性があり、かつ時間当たり賃金が下がらなければ労働基準法適用上問題ない」と回答を得て、相応の引き下げも可能と示唆している。そうすれば、超過勤務の割増基礎賃金は上がらない。短縮分の週四時間を超過勤務としても、割増分の二割五分の賃金が増えるだけで済む。全体の労働時間数も従来と変わらない。上手い方法ともいえる。
 しかし、残業なしの場合の月給は確実に減る。やはりその保証を求める声は強くなるであろう。
 元々、何故「月給制」にしたか、日給制を採らなかったか、「月給制」とはなんぞや、とその基本まで考えた賃金改定でなくてはなるまい。

中小企業静岡(1997年 4月号 No.521)