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静岡サンダル工業協同組合
▲3月に行われた『足と靴のフェスティバル』
▲足に悩みを抱える人は多い
 

整形外科靴で価格破壊に対抗

輸入品の攻勢に苦しむ地場産業

 静岡県の地場産業の一つであるサンダル。その歴史は昭和三〇年代初頭までさかのぼる。
 静岡は江戸時代より塗下駄の名産地であったが、第二次大戦後、日本人の生活が洋風化するにつれて下駄に対する需要が減少。徐々に下駄の生産業者がサンダル製造へと転換していった。
 静岡サンダル工業協同組合は、こうした時代の流れの中で、昭和三三年に設立された。現在組合員は四八人。接着剤などの共同購入と見本市の開催が主な事業である。
 静岡県は、紳士物サンダルでは全国の生産額の約八〇%を占めるなど、全国一の生産地である。不況にも強く、十年ほど前までは順調に成長してきた。
 しかしここ数年は状況が一変。海外から安価な製品の輸入が増え、組合員の経営は厳しくなっている。
 こうした状況に対応するため、組合では県や静岡市の助成事業を活用した新商品開発を行うなど、業界の活路を探っている。

足の症状に合った靴作りを
 そして、現在組合が研究を進めているのが『整形外科靴』の製造。整形外科靴とは、足の親指が小指側の方に曲がる外反母趾などの足の変形を補正し、痛みをやわらげる靴である。
 取り組んでいるのは、青年部のメンバーを中心に二年前に発足した『コンフォート型フットウェア研究会』。
 現在、足に悩みを抱える人は全国で三四〇万人にのぼるといわれる。研究会の取り組みは、こうした人たちの悩みに個別に対応し、症状に合った靴を作ろうというもの。
 「海外製品との競争に打ち勝つには消費者ニーズに合ったものを作るという発想では間に合わない。これからは消費者ニーズの掘り起しをしていかなくてはなりません」(矢澤理事長)
 これまでは足の悩みを抱えている人は、既存の商品の中で比較的履きやすいものを選ぶ以外になかった。
 「消費者のみなさんは、靴は靴屋さんの店頭で買うものと思いこみ、自分にあった靴を作るなどとは考えもしなかったのではないでしょうか」(同)
 組合では、既存の靴で我慢してきた人たちに足の症状を改善する靴についての情報を提供し、これに対するニーズを創出していくことを目指している。
 「個々の消費者と対面し、悩みを聞きながらその人にあった靴を作る。大企業や海外の企業にはできない、地元の中小企業だからできる靴作りです。採算に乗るまでに時間がかかりますが、個々のケースへの対応を積み重ねることで、少しずつ市場が広がっていくのではないかと期待しています」(同)

『足にやさしい都市』を前面に
 組合では、この取り組みを消費者にPRするため、三月八〜九日にかけて、『足と靴のフェスティバル』を開催。足と靴の科学研究所所長・清水昌一氏による講演や、「足と靴の無料相談会」などを行った。
 「歩くこと・足そして靴」と題した講演では、健康によい歩き方、足の痛みや変形のチェック、靴の選び方などを詳しく解説。二日間で述べ一八〇人が参加し、熱心に耳を傾けた。
 また、無料相談会は事前にはがきで申し込む予約制で行ったが、一〇〇名の定員に対して一七〇名を超える申し込みがあり、組合員らが相談に応じた。
 「こんなに多くの方に来ていただいたのは、足のことで悩んでいる人は大勢いるのに、これまで相談する場所がなかったということでしょう。私たちの取り組みは正しかったと、意を強くしたところです」(同)
 組合では二月に、静岡市内の中学生三〇〇人を対象に足形を採取した。これに今回の相談会の内容などをデータとして活用し、足の健康を保つ履き物作りについてさらに研究を進めていく。
 「サンダル業界にとって、今の時代は下駄からサンダルに転換した時と同じくらいの変革期だと思います。これまで築いてきた地場産業としての地位にあぐらをかかず、新しい業界の生き残り策を研究していきたいと考えています」(同)
 大量生産の輸入品による価格破壊に、組合では敢えて『目の前の客』のための商品作りで対抗。『足にやさしい都市・静岡』を前面に出して、新しい地場産業の形成にチャレンジしている。

 

中小企業静岡(1997年 4月号 No.521)