特 集 
 寄 稿 
 多士済済 
 視 点 
 ネットワーク 
 編集室便り




 太さ一mm、畳の幅九○cmに千本並ぶほど細いことから「千筋」と命名された駿河竹千筋細工。その丸ひご一本いっぽんに己の技を込める職人集団、静岡竹工芸協同組合の理事長を務める。
 伝統に安住することなく独自の工法を追及するその作品は、現代的風合を帯びて今人を魅了する。昨年の十一月、産業開発振興に尽力した功績により県知事表彰を受賞した。
 この道、まもなく六○年。小学校五年のとき漆職人だった父親を亡くし、十六才で竹細工職人の叔父に弟子入りした。朝七時半から夜九時までの修行。「道具を自分の体のごとく自由に使いこなせ」と師匠から厳しく叩き込まれた。六年後、二二歳で念願の独立を果たす。
 当時は、問屋の指示する通りに作っていれば売れた時代。特に行灯は、繊細な美しさが海外で人気を呼んだ。「今思えば、温室の中にいたんです。でも、それはいつまでも続かなかった」と言うとおり、ドルショックの影響やプラスチック製品の台頭をまともに受け、冬の時代へ。昭和四○年代後半、多くの職人は技術を捨て転職していった。
 こうした危機を乗り越えようと、昭和五○年、同組合が設立された。翌年、国の「伝統工芸品」の指定を受け業界の振興計画づくりに尽力。これまで「技は他人に見せない」というタブーを破り、技を出し合う、教えあうといった技術研鑽事業に注力した。その活動こそが、既存技術にとらわれない業界の近代化を強く後押しすることとなった。

県知事表彰の伝統工芸士 
独創的作品で
 
今人を魅了する
 
     クローズアップインタビュー 
静岡竹工芸協同組合 
理事長
黒田 英一
 

 一方、その魅力を広めようと、北京やニューヨークで竹細工教室を開催。平成十三年には、天皇皇后両陛下の御前で、実演の大役を務めた。
 今年一月、静岡市で開催された駿河竹千筋細工新作展。会場には、組合員十五人が自信をもって送り出す六○点もの力作が展示された。その中で、編み方に新技法を取り入れた会心作『盆 つどい』は、静岡市長賞を獲得。同作品は熱心なファンの懇請を受け、譲り渡すこととなった。
「作品がお客様に評価され、結果としてご購入いただく。職人として最高の喜びを感じます」。
 自らを不器用だと公言するが、「決め手は、ものづくりが好きかそうでないか、ではないでしょうか」。
最近、やり足らないと思うことがあれこれと浮かんでくる、ともいう。
「いまだ一人前ではないのかな、と時に思う。技術の探求というのは、きりがありません」。
 県伝統工芸士会会長の重責も担う。昭和六年生まれ。




中小企業静岡(2005年3月号No.616)