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視点・指導員の現場から

チームワークがもたらすもの

ものづくり厳冬の時代の中で

「理科系の新卒者を採用しても、熱や光、音といったものづくりの本質を知るのに欠かせない“物理”を学ばず卒業した人が多い」。ある会議での中小企業者の言葉である。この要因として、「受験対策から生じた入試科目優先主義による教育の弊害」と、指摘する人がいる。

あるいは、「金融資本主義の時代に、多くの理科系の学生が金融業界を就職先に選び、その結果《製造業離れ》に拍車がかかったから」とも言われている。

そして、ここにきて追い打ちをかけているのが、世界同時不況の大寒波。連日のように報道される正規・非正規雇用労働者の大量解雇とともに、「ものづくり大国ニッポン」は、まさに厳冬の時代を迎えている。

ものづくりを支えるものとは

ノーベル賞を受賞した田中耕一氏は、日本のものづくりの優秀さを「チームワーク」と語り、「異分野融合を行いやすく独創性をも育み、若い人たちが学んで育っていく教育の場、道場にもなると思う」と語ることで、日本のものづくりを支えるため、「チームワーク」が果たす重要性を語っている。(09年1月1日 日本経済新聞抜粋)

本会が毎年開催している「中小企業団体静岡県大会」に以前、お招きした「東大阪宇宙開発協同組合」が、今年1月に打ち上げた「まいど1号」は、異業種が結集し、地元大学生との連携を通じ、ものづくりの魅力を伝えたまさに「チームワーク」の勝利といえる。中小企業の底力とそれを支える協同組合の存在意義を多くのメディアが伝え、主役である温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の主目的の報道が霞むほどであった。

県内を代表するものづくり地域の一つ浜松市においても、昨年6月に「宇宙技術および科学の国際シンポジウム」が開催され、国内外から過去最高の動員を集め“ものづくり浜松〜「メイドイン・浜松」を宇宙に!”を強くアピールするなど、地域の活性化を図るべく積極的な取り組みを行なっている。

「宇宙」だけでなく、東京大田区や東北、長野諏訪地方、岡山等では、「航空機産業」が注目の的となっており、「環境」や「医療・福祉」とともに、「空」が今日、脚光をあびている。

“技術開発”と“掃除力”

マスコミ報道によれば、「仕事が薄くなり、お金の代わりに時間だけはある今こそが、技術開発や社員教育に傾注できるチャンス」。「雇用情勢が悪化しているこの時期が、優秀な人材を獲得する良い機会と受け止め、積極採用に乗り出している」との声を聞く。

実際、私も巡回時に「この時期だからこそ、若い人を採用し、じっくりと育てたい」との言葉をある経営者から伺った。

このように、新分野進出やものづくり継承のため、次世代を担う学生を巻き込むことで、連携強化(チームワーク)を図るには、今が格好のタイミングと、ピンチをプラスに考えている中小企業経営者は多い。

最近、労働時間短縮の影響を受けてか、職場掃除の取り組みを紹介した書籍や新聞記事が多くなったと感じる。

私が目にしたものでは、大阪にある「枚岡(ひらおか)合金工具」やオフィス用品レンタルの「武蔵野」、カー用品専門店の「イエローハット」などの事例である。

いずれも、社内掃除を重視することで、社員にプライドとモチベーションをもたらした結果、業績回復につなげた事例である。V字回復の成功の鍵となった「掃除力」。ここでも「チームワーク」が不可欠とされている。

いつの時代でも頼れるのは、「チームワーク」。すなわち「ヒューマンパワー」である。 (揚)