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シリーズ「くみあい百景」

救助活動のプロフェッショナル

静岡県レッカー事業協同組合

住所:〒410-0011
沼津市岡宮1320番地の10
理事長:加藤正明
組合員:15社
設立:平成14年3月
TEL:055-921-2100
FAX:055-923-8049

 

災害発生時に不可欠なレッカー業務

災害や事故発生時に大きな威力を発揮するレッカー車。
大型トレーラーの牽引には2台のレッカー車で対応。

平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災。被災地では建物の倒壊や道路の損壊などにより、道路網は完全に寸断され、全域で交通が麻痺した。救助に向かった緊急車両も立ち往生。死傷者の救出・搬送が遅れるなど救援活動に大きな支障が生じ、多くの人命が失われた。

「欧米では、災害が発生した際、救急車や消防車などの緊急車両より、レッカー車の通行が優先されます。進路を塞ぐ車両を移動させ、速やかに交通を確保するためですが、わが国ではこうした意識が希薄」と加藤正明理事長は嘆く。

理事長は、東名高速道路が全線開通した昭和44年、現会社を設立した業界の草分け的存在として知られる。同46年には、全国の業者を束ね、全日本高速道路レッカー事業協会を設立。以来、業界のトップとして40年近くにわたり、レッカー業務の重要性を訴えてきた。

特に静岡県では、東海地震による甚大な被害が予想される。災害時の速やかな通行路確保は、都市防災の観点からも極めて重要だ。

大規模災害への対応は、業界一体で取り組まなければならない。そこで平成14年3月、志を同じくする県内のレッカー業者12社が結束し、法人化に踏み切った。

法人化以前からその結束は固く、ガケ下数10メートルに転落した車の引き上げや、横転し道路を塞いだ大型トレーラーの撤去など、1社では対応の出来ない大規模なレッカー作業を有志総出で処理するなど、その協力体制は万全だ。

行政から厚い信頼が寄せられる

加藤正明理事長は、業界の草分け的存在。事故現場研究の第一人者でもある。

設立の効果は、すぐに現れた。設立間もない平成14年6月、サッカーワールドカップの3試合が袋井市のエコパスタジアムで開催された。これによって、会場周辺で予想される事故車や故障車のレッカー業務を、県警本部から依頼されたのだ。

翌15年には、静岡国体の警備業務を受注。皇室関係者も多数列席する中、速やかで安全に行われた周辺道路の安全確保は、組合や業界の評価を大いに高めた。

また、9月1日に行われる「静岡県総合防災訓練」にも、同15年から参加。警察や消防、自衛隊と、本番さながらのドライバー圧閉救出作業や緊急通行路確保訓練を欠かさず実施する。

積み重ねた実績と信用は同年、静岡県・県警本部との間に結んだ「大規模地震災害時における緊急通行妨害車両等の排除業務に関する協定」として実を結ぶ。レッカー業者が同種の協定を結ぶのは全国でも初めてのことで、行政から寄せられる信頼の大きさの表れだ。

悲惨な事故を減らすため

事故で出動する組合員は、必ず現場写真を撮り、可能な限り事故当時の状況を当事者から聴取する。それを事故報告書として事故を起こしたドライバーに渡すサービスを行っている。

「われわれは、多くの悲惨な事故を目の当たりにしてきました。単に安全運転を啓発するだけでは事故はなくなりません。事故原因の多くはうっかり、ぼんやりなど。さらに思い込みや錯視によるものも多い。なぜ事故が起こったのか、原因を細かく分析し、その実態を利用者に伝えることが事故を減らすことに直結する。一方、これらの情報を蓄積、共有できることも組合のメリットです」。理事長はその意義を説く。

安全かつ迅速に交通の確保を図る

処理作業から事故のメカニズム、救出・救命法に至るまで、多岐にわたる研修を開催する。

事故処理作業中に通行車などの巻き添えとなり、亡くなる作業員が後を絶たない。これを防止するため、組合では安全教育にも力を注ぐ。

「通行車両を巻き込まないよう車両移動作業中の警戒措置を万全にする。これが作業員を守ることになります。組合ではこれを作業員に徹底的に教え込んでいます」。

加藤理事長は、蓄積した膨大なデータやドライバーの視点に立った交通事故の原因分析などをまとめた多くの著書をもつ。さらに裁判の事故鑑定人を務め、警察学校、消防大学校の教壇にも立つ、わが国事故現場研究の第一人者だ。組合では理事長を講師に、処理作業から事故の発生メカニズム、人間の心理、救出・救命法に至るまで、多岐にわたる研修を開催する。

例えば横転した車両を戻す作業。「一般人なら4、5時間を費やすこの作業をわれわれは10分程度で処理しなければならない。

そのためには、現場到着と同時に、車両の形状や積載物、重量などを瞬時に判断する知識と経験が必要。さらには救命法も知っていなければならない。われわれの使命は、安全で迅速な道路交通の確保にあります」。

レッカー業務の認知度向上と災害などの緊急時に備えるため、絶え間ない研鑽が続く。