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講 演 会


立教大学経済学部
教授 
山口 義行 氏


「自己表現力」と「自己革新力」で
時代を味方にできる経営者となれ

 銀行の不良債権を処理すれば「目詰まり」は取り除けられ、資金の流れは円滑になるといわれてきた。しかし、実際には逆である。不良債権の処理は同額の損失を帳簿上発生させることにほかならず、銀行は自己資本の減少によって、ますます貸出能力を奪われることになった。
 どういうことかというと、現在、銀行には「自己資本比率規制」がある。これは、銀行の「自己資本」(資本金や利益)を分子におき、「資産」(貸出金など)を分母において算出した比率が八%(海外に拠点を持たない銀行は四%)以上なければならないというものである。不良債権を処理すればそれだけ分母の「資産」は減少するが、同時に同額だけ分子の「自己資本」も減少する。「資産」を処理するということは、それだけ損失が発生するからだ。結果として、自己資本比率が下がり、銀行はその比率を上げようとして、分母の「資産」(貸出金)を一層減らそうとする。そのために、新たな貸し渋りや貸し剥がしが発生する構図である。よって、不良債権処理を急げば、ますます中小企業の資金繰りは不安定化する。
 こうした中、時代を味方にできる経営者となるためには、『自己表現力』と『自己革新力』という二つの能力が必要だ。
 前者は、「今は赤字だが、今後、このように回復する」という改善計画書のことで、銀行への大きな説得材料となる。
 後者の自己革新とは、固い頭をやわらかくし、視点を変えた経営をするということ。ある優秀なドリル製造業者の倒産が一つの例だ。倒産理由は、ドリルがレーザーにとって代わられたためだが、そこには大きな落とし穴があった。「顧客はドリルが欲しいのではなく、穴を開ける装置が欲しい」ことに気づかず、ドリルだけに固執し、自社が「穴」を提供する業者である自覚がなかったのである。このことは、全ての企業や団体に当てはまるので、「わが社は何を売っているか」「顧客は何を求めているか」を問い直す必要がある。そしてその答は、日々変化していることを肝に銘じなければならない。




中小企業静岡(2005年2月号No.615)