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「美人の一生と5S運動」

 何を残し、何を捨てるか

(株)大和シンク・エージェンシー
取締役社長 石 橋 達 也

 信州・須坂に古い豪商の屋敷である「豪商の館・田中本家」がある。
 田中家は享保という江戸中期から代々続いた地元の豪商で、財力は当時の須坂藩を凌ぐほど、苗字帯刀を許されてきた名家である。
 俳人一茶を始め、多くの文人墨客が訪れ、地方の文化的交流にも大いに寄与している。
 信濃・須坂は、長野市と小布施との中間にある小さな町。今、長野オリンピックでその一帯は沸いている。
 町の観光資源として、この「豪商の館」は一般公開されているが、そこには最近その土蔵を調査整理して出てきた、江戸時代からの豪商の生活ぶりを伝える多くの文化遣産が展示されている。
 朱塗り「山水堆錦重箱」、黒緞子地の「桐縫取紋様打掛」、伊万里の「色絵蘭人図八角図皿」、江戸時代の「若殿様雛人形」その他、さまざまな多数の食器や家具が展示されている。
 豪商とはいえ、これだけの今日的価値ある品物をキチッと整理して長年保存してきたことに対して感心する。中でも「女の一生」と題して、明治中期から昭和50年代まで存命され、当家のお嬢様であった「田中田鶴」さんの産着から晩年の衣装や愛用して使っていた色々な身近な品物を「彼女」の成長する年齢順にきれいに保存され展示されているのには驚いた。
 田中田鶴さんの写真もあったが、なかなか美人である。子供のころに遊んだ当時のミニチュアのキッチンセット(?)やお人形など。その保存状態から田鶴チャンのご両親の子供への愛情がしみじみと伝わってくる展示品である。中でも素晴らしかったのは、成人した娘時代に着ていた数々の着物である。時代は大正時代であろうが、その柄のデザインが素晴らしい。アール・デコの大胆な図柄や色彩は現代でも新鮮に写るセンスのよいものである。
 「お休み処」の一隅にある記念品販売所で、そのデザインや色彩を使った着物と同じ柄のスカーフやハンカチーフが売られていた。訪れたご婦人方が結構お土産用に買い求めている光景が見られた。
 職場での生産性向上運動の1つに「5S運動」がある。整理・整頓・清掃・清潔・しつけ、この頭文字をとって「5S」というが、職場をすっきりさせて効率のよい作業環境をつくり上げる手法である。それを全員参加でするところに、意識改革を伴わせる。
 そのまず手始めが「整理」で、1カ月間使わないものは、職場から隔
離させたり、何故1カ月間も使わないものを手近に置いてきたか、また購入したかを考えさせる。
 しかし、その不要なものを隔離したり処分したりする段階で、将来にわたって保存するものと不要・廃棄するものとの区別をつけるセンスは、生産性という当面の数字的ドライな感覚だけでよいだろうか。
 「捨てる」ことが「整理」の基本である。しかし、本当に捨てるものと将来の為に残しておくものとの判断基準は難しい。娘が成長して着られなくなった柄の着物は不要である。しかし、その娘にとっては、後世の思い出がある着物であろう。小学校時代の「通信簿」もしかり。
 企業・団体にとって、残すもの、捨てるものの区別基準は、高度の判断が必要である。


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 中小企業静岡(1997年10月号 No.527)
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