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中国が風邪ひけば日本は脳梗塞

政策研究大学院大学
教授 
橋本 久義 氏


■生き残る日本の町工場

 例えて言うなら、中国は世界中の製造業が吸い込まれていくブラックホールである。
 しかし、日本の製造業者がこのブラックホールに完全に飲み込まれることはありえない。なぜなら、日本人は欧米の製造業者とまったく違うメンタリティを持っているからだ。そのメンタリティとは、「儲からなくてもやり続ける」という根気である。
 事業とは、誰もが最初は儲けるつもりではじめる。それがいつしかちっとも儲からなくなる。それでも「みんなの役にたっているんだから」と歯を食いしばって続ける。そのうち、従業員を大切にし、お得意さんや仕入先とも親しくなり、義理と人情の世界に迷い込んだりする。自分自身が儲けるという本来の目的はすっかり忘れて、うっかりすると家屋敷を売ってもまだやめない…。このような特性は、欧米や中国の経営者には絶対にない。
 特に欧米の経営者はあきらめが早く、ダメだと思えばすぐにやめてしまう。会社はお金を儲けるマシーンだとすると、マシーンが働かなくなったら捨てるか売るか潰すかするしかないわけだ。
 そのため彼らは、少量多品種では儲からないから大量生産ができるものしか扱わない。加えて、生産機械のように現場で手直しや補修が必要な分野も得手としない。

■世界中の注文が日本に集まる

 そんな土俵では、人件費が圧倒的に安い中国にアドバンテージがある。欧米の製造業はあっさりと中国に吸い込まれるだろう。ところが、日本の製造業は、前述の得難いメンタリティーもあって底辺の基盤部分までしぶとく維持される。ちなみに底辺の基盤部分がなくなってしまえば、その上の高付加価値・高技術の部分も腐食されてしまう。要は、基礎的なものづくりが中国に移管されてしまったばかりに、自国に高度なものづくりも消えていくという図式である。だから、欧米の製造業の未来は決して明るいとはいえない。一方、その基盤部分を維持している国を中国以外で探すとなると日本しかない。その結果何が起こるか…。
 中国でつくるにはちょっと難しいという世界中の注文が、すべて日本に集まってくるというシナリオである。
 いま日本は、中国やアメリカの景気に引きずられてそこそこの状態にきている。だが注視しなければならないのは、日本の商売相手が急速に中国、アジアにシフトしている点だ。万が一、「中国が風邪を引いたら、日本は脳梗塞になる」。それくらい、両者は密接な関係の上に成り立っていることを自覚しなければならない。



中小企業静岡(2006年2月号No.627)