恭賀新春 
 多士済済 
 特 集 
 視 点 
 編集室便り 



 指導員の現場から
 いつの時代も必要なこと 



今年こそは・・・

 早いもので、今年もいよいよ大詰めである。
 毎年この時期を迎えるたびに、新たな「志」や「目標」を掲げる方が多いと思う。我々の日常生活の上でも、また企業の経営上も同じだと思うが、毎年の積み重ねが重要であり、ある日・ある年、全てが急に上手いくという事は、そうそうあり得るものではない。
 「今年こそは」派の私は、より現実的な「志」というより「目標」を掲げ、(鬼が笑うが)年末にその達成感を味わいたいと、ここに宣言したい。
 さてここで、ある中小企業の事例を紹介したい。十六年度に静岡市消費者協会が実施した「消費者が選ぶ良いお店」にも選ばれた静岡市小鹿商店会の「魚芳」(うおよし)という鮮魚店のことである。
 創業八○年余、この辺りではなかなかの老舗であり、店主である三代目の若夫婦とその両親である二代目夫婦四人で店を切り盛りしている。未来の四代目も小学校から帰ると足は自然とお店に。一見ごく普通の魚屋さんであるが、大型スーパーなど競争相手がひしめく厳しい立地条件の中で、消費者にしっかりと支持され繁盛しているのには当然理由(わけ)がある。


「繁盛」の理由

 数年前古い店を取り壊し、南欧風の外観と広々した売り場にリニューアルした。この洒落た雰囲気と清潔さなどを好んで来るお客さんも多いと聞くが、何よりも好評なのは、とにかく新鮮な魚介類を揃えてあることと、その調理方法も教えてくれるということである。当然、接客態度、商品知識、価格等についても、全て消費者の満足度を満たしている。
 しかしこれらのことだけで、急に店が繁盛するようになったわけではない。
 いうまでもなく創業者と二代目である先代の二人が長年苦労を重ね、積み上げてきた消費者への信頼感・安心感という基盤があったからこそである。現店主もその基盤に胡坐を欠かず、時代の流れにあったサービスへの労苦を決して惜しむことはない。
 くしくも昨年の中小企業白書では、「自営業者の後継ぎ難」が、高い廃業率の原因と指摘しており、特に身近に事業経営の実態を見聞きして育った経営者の親族が少なくなったと分析している。

「志」と「団結」

 つまりこの事例のように、親が子供に「働く」ことの意義・大切さ・楽しさを自然に説くような場面が減少してきた証拠でもある。
 店主曰く「お店の繁盛は家族の幸せであり、その志を家族全員がしっかりと認識している」。さらに「実現のための家族の絆はとにかく強い」のだと。
 昔から聞き慣れた「志」と「団結」。これらは、時に古臭い言葉であるかのように思われがちだが、実はいつの時代でも、どんな組織でも必要とされる普遍性を秘めている。
 今後、経営者が「新連携」や「創業」といった新たな分野へ挑戦する時などにも、通じる原点ではないかと思う。
(大谷)



中小企業静岡(2006年1月号No.626)