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準特集

2007年版 中小企業白書にみる
地域資源の有効活用に向けた取組み

2007年版中小企業白書のテーマは、「地域の強みを活かし変化に挑戦する中小企業」。白書では、中小企業の今後を考える上で、「地域」との結びつきがいかに重要であるかという観点にたち、地域の農林水産品を蓄積された技術・技法で加工(農林水産型)、鉱工業品関連企業の集積により蓄積された技術・技法(産地技術型)、自然や文化財等(観光型)に地域資源を分類。地域資源の活用状況や中小企業経営に与える効果、今後の課題などを分析している。ここではそのポイントを紹介する。

中小企業の差別化の取組みについて

「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査「(調査機関:(株)三菱総合研究所)によると、「観光型」企業では、差別化のポイントとして、地元の農林水産品の使用や温泉の泉質そのものが、サービス・提供プログラムの質とともに挙げられている。他者との違いを出すために、地域資源を活用している実態が分かる。

また、温泉地の知名度をポイントとする企業が、企業の知名度をポイントとする企業を上回っており、地域全体による取組みの重要性がうかがえる。[表(1)]

[表(1)]差別化のポイント(観光型)上位10項目
〜サービスの質と同じく、地域の食材や温泉の泉質が差別化のポイントとなる〜

資料:(株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)複数回答のため合計は100を超える。

「農林水産型」企業では、差別化のポイントとして地元の農林水産品を活用しているとした企業が全体の半数近くに上っている。また、「観光型」同様に、地域の知名度を挙げた企業が、商品や企業の知名度を差別化のポイントとしている企業を上回り、地域名が商品の売れ行きに少なからず影響を与えるなど、地域の産業資源や地域そのものが、差別化に大きく貢献している。
「産地技術型」では、ポイントとして、販売先との強固な信頼関係や商品デザイン・イメージを多く挙げている。地域内で一般的な技術・技法や産業集積などを挙げた企業は、「農林水産型」や「観光型」に比べ少数にとどまり、「産地技術型」では存在する地域資源の強みが認識されていない。[表(2)]

[表(2)]差別化のポイント(農林水産型及び産地技術型)
〜農林水産型では地域内の農林水産品を差別化のポイントとした企業が多く、産地技術型では、地域内で一般的な技術や技法を差別化のポイントとする企業も存在する。〜

資料:(株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)複数回答のため合計は100を超える。

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地域資源を認識している割合

業務に関連する地域資源が存在すると考えている企業は「農林水産型」では59%であるのに対し、「産地技術型」では30%にとどまる。逆に地域資源は存在しないと考える企業は、「農林水産型」8%に対し、「産地技術型」は23%と対照的である。[表(3)]

[表(3)]地域資源の認識割合(農林水産型及び産地技術型)
〜農林水産型では地域内の農林水産品を差別化のポイントとした
企業が多く、産地技術型では、地域内で一般的な技術や技法を差別化のポイントとする企業も存在する。〜

資料:(株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)

地域資源は、その土地でなければ作れないものや提供できないサービスの源であり、地域に限定されたものである。しかし、「産地技術型」における技術や技法は、企業固有の技術・技法との区分が明確ではなく、また無形であるため、地域特有の資源として捉えにくいという側面があるものと思われる。

「観光型」では、温泉資源は、その存在が明確であるが、温泉そのものは地域資源ではないと考えた企業の割合は10%を占めている。その理由として、類似した温泉が存在しており独自性に乏しい、温泉地全体としての魅力が乏しいことなどが挙げられている。

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地域資源を活用した新商品・新サービス創出の効果

「農林水産型」で、地域資源を認識している企業の業績を確認したところ、最近5年間で地域資源を活用し新商品・新サービスを創出した企業の方が、創出していない企業に比べ、増収傾向の企業がやや多いとの結果を示した。地域資源が、新商品の開発による新たな事業の柱の構築に寄与している可能性もある。また、建設業者には、地域の農林水産品を活用して、新分野に進出している事例が存在する。

同様に「産地技術型」でも、新商品を創出した企業の方が創出していない企業と比べて、増収傾向の企業の割合が高い。[表(4)]

[表(4)]地域資源の活用手法
〜3割程度の企業で地域資源は新商品の開発に活用されている〜

資料:(株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)
1. 複数回答のため合計は100を超える。
2. 「業務に関連する地域資源が存在」すると回答した企業を対象に集計している。

「観光型」においても、新サービスを創出した企業の経営業績が比較的良好であった。温泉宿泊施設の新たなサービスとしては、温泉地内における共通手形の発行、健康・美容プログラムを取り入れたツアー企画など、入浴サービス以外を付加した取組みが行われている。

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売上数量や価格以外の効果

地域資源活用の効果は、売上数量や単価の向上といった直接的なものにとどまらない。「農林水産型」では、商品のイメージ向上や自社ブランドの確立といった点が挙げられている。地域の知名度向上や地域の活性化を効果として挙げている企業も多く、地域資源を活用することが、地域全体の活性化にも寄与していると考える企業が多く存在する。

「産地技術型」企業が活用の効果として挙げる点には、製造工程の効率化や商品の品質改善とともに、商品イメージ向上がある。ここでも地域の活性化を挙げた企業が多数を占めている。[表(5)]

[表(5)]地域資源活用の効果(農林水産型及び産地技術型)
〜地域の活性化や知名度向上にも寄与していると考える企業が多い〜

資料: (株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)
1. 複数回答のため合計は100を超える。
2. 「業務に関連する地域資源が存在」すると回答した企業を対象に集計している。

「観光型」では、イメージの向上とともに、集客数の増加や知名度向上など地域全体への効果が多く挙げられている [表(6)]

[表(6)]地域資源活用の効果(観光型)
〜地域の活性化が効果として挙げられている〜

資料: (株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)
1. 複数回答のため合計は100を超える。
2. 温泉は「地域独特の産業資源である」と回答した企業を対象に集計している。

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地域資源の発掘及び再発見

地域資源を活用する際には、まず地域に特有の経営資源を見出すことが必要である。他社との差別化を図るうえで有効な地域特有の資源が存在していても、その有用性に気付かない限り、企業経営に役立てることはできない。地域資源が存在するとの認識があってはじめて付加価値が増加する。

地域資源を認識し、これを活用した新商品・新サービスの創出を試みた企業に、地域資源を活用したきっかけを確認したところ、「農林水産型」、「産地技術型」、「観光型」全てで、地域資源が地元の特産・特色であったことや地域資源を伝統的に継承していたことが挙げられた。

一方、バイヤーや旅行代理店、専門家などの社外からの助言を挙げた企業の比率はあまり高くない。温泉宿泊施設では、団体客から個人客へ営業対象がシフトする中、ネット予約が増加しており、旅行代理店とのつながりが弱まっている可能性がある。[表(7)(8)]

[表(7)]地域資源を活用した商品の開発・改良のきっかけ(農林水産型及び産地技術型)
〜地元の特産・特色を活かそうとした割合が高い〜

資料: (株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)
1. 複数回答のため合計は100を超える。
2. 「業務に関連する地域資源が存在」し、地域資源を活用した新商品の創出、既存商品の改良を試みた企業を対象に集計している。

[表(8)]地域資源を活用した新サービス・プログラム創出のきっかけ(観光型)
〜地元の特産であったことが活用のきっかけ〜

資料: (株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)
1. 複数回答のため合計は100を超える。
2. 温泉を活用した新サービス・プログラムの創出を試みた企業を対象に集計している。

ただし、地域資源活用の成功事例の中には、市場やデザインに精通した専門家など外部人材の助言を受けて、自らが有する技術を有効に活用した事例や海外の取組みを参考として、地域資源の有効性を再確認した事例もあり、外部の視点も地域資源の発掘や活用に大きく寄与すると考えられる。

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他者との連携

大企業と比べ経営資源に限りのある中小企業は、中核業務にできるだけの経営資源を投下し、販売先企業などとの連携により、経営資源の不足を補うことも必要となる。連携の実施体制をみると、地域資源が存在するとした企業では、連携体制を構築している割合が高くなっている。

「農林水産型」と「観光型」では地域内の連携が多くなっているが、地理的な近接性だけではなく、地域資源に対する認識や効力を共有できることが、地域内の連携を成立しやすくしていると考えられる。また、地域資源の有効活用によって期待される地域の活性化が、域内企業共通の利益となることも、地域内連携が多い背景と思われる。

一方で、「産地技術型」では地域内、地域外の連携がおおよそ同割合を示した。「産地技術型」は国内の大消費地を販売先として最も重視しており、消費地の情報入手や販路開拓のために地域外の連携がなされていると考えられる。

また、「農林水産型」、「産地技術型」では、顧客ニーズの把握や商品の企画、販路開拓に際して直接の販売先と連携している割合が高いが、産地の中には、問屋以外の企業が産地内外の各企業が持つ特色ある技術や製品を組み合わせ、商品の企画を行う動きも見られている。なお、組合を中心としてブランド化を図っている産地も多く存在している。

「観光型」では、業界の組合組織が積極的な役割を果たしているが、これは、地域全体の集客状況が個別の企業に与える影響が大きく、組合構成員の利害が一致しやすいことが背景にあるものと思われる。

複数の企業が連携体制を構築するにはきっかけが必要だが、責任者同士の業務上の面識とあわせて、商談会や外部の仲介にも連携成立の効果が認められる。[表(9)]

[表(9)]連携のきっかけ
〜各種商談会や交流会、外部の人材による仲介も有効〜

資料: (株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注)
1. 複数回答のため合計は100を超える。
2. 連携を行っている企業を対象に集計している。

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販売先の確保

地域資源が存在するとした企業が最も重視している販売対象地域は、「農林水産型」では、地域内への販売を重視する企業が3割程度存在する。「農林水産型」の地域資源のかなりの部分が、現時点では地産地消を重視していることが分かる。

「観光型」においても、温泉は地域資源であるとする企業で、地産地消を重視する度合いが大きい。

「産地技術型」では、海外や大消費地を含む地域外への販売を重視している。地域によっては既に人口の減少が始まっており、大都市圏への人口集中の動きも現れている。このような状況下では、自社の存立する地域内の需要だけではなく、首都圏などの国内大消費地、さらには海外を含めた地域外の需要を取り込むことが必要となる。現時点で地産地消を重視している「農林水産型」や「観光型」では、地域外への販売余地が比較的大きく、大きな可能性を秘めている。

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地域資源活用に際しての問題点

地域資源を事業に活用する際の問題点として、「農林水産型」では、原材料の安定した確保や商品化の技術力が挙げられる。地域内に立地していても、原材料を安定して確保することは必ずしも容易ではない。また、地域資源の存在に気付きながらも、消費者に受け入れられる商品に加工する技術に乏しいという問題点を抱えている。情報発信力や流通手段の確保、マーケティング人材にも問題を感じており、これが地域外への商品の浸透を妨げている可能性がある。

「産地技術型」では、商品化の技術力や、地域資源を見出すことが難しい点が問題として挙げられた。伝統的に蓄積された技術・技法を、現在のライフスタイルに合致させていくための技術力・デザイン力に対する支援が求められる。また、目に見えない技術・技法は地域資源として認識されづらく、これの他地域に対する優位性を発見すること自体が大きな問題となっている。[表(10)]

[表(10)]地域資源を活用する際の問題点(農林水産型及び産地技術型)
〜農林水産型では原材料の確保、技術力、情報発信力とともに、資金調達力にも問題を感じている。
産地技術型では、技術力に次ぎ、地域資源を見出すことが難しい点が挙げられている。〜

資料: (株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注) 複数回答のため合計は100を超える。

「観光型」では、地域全体のまとまりが問題とされている。観光地においては個社の努力のみならず地域全体の魅力を高める必要があるが、地域一丸となって活性化に取り組むことが難しいことを示している。[表(11)]

[表(11)]地域資源を活用する際の問題点(観光型)
〜地域全体のまとまりや資金調達力が地域資源の活用に必要〜

資料: (株)三菱総合研究所「地域中小企業の差別化への取り組みに関するアンケート調査」(2006年11月)
(注) 複数回答のため合計は100を超える。