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視点・指導員の現場から

「M&A」雑感 生き残りと活性化をかけて

広がる「M&A」

「2006年版中小企業白書」によると、経営者が55歳以上の中小企業のうち、「事業を何らかの形で他者に引き継ぎたい」という回答は、96%であるにもかかわらず、後継者を既に決めている企業は47%と半数に満たず、後継者が見当たらないという回答は15%にも達するという。さらに、後継者が見つからなかった場合には77%が「事業の売却」を検討しているという。

「事業の売却」の一環としての「M&A」は、Merger(合併)とAcquisition(買収)の頭文字を取った言葉であるが、これらはかつて大企業間での「会社乗っ取り」といったマイナスイメージでとらえられがちであった。

しかし、最近の企業を取り巻く環境(後継者不足、情報化社会、技術革新、外資系企業との競争等)は大きく変化し、「M&A」に対する期待やニーズも多様化してきた。
特に高度成長時代に設立された企業は、創業者が高齢化しており、後継者難を解決する手段としての「M&A」は今や中小企業にも広く浸透するようになった。

進みゆく法整備

かつては旧商法上、合併や事業譲渡には、規模の大小を問わず株主総会の特別決議が必要であった。

しかし、これでは小規模な事業再編でも長期間を要し、経営に支障をきたすということから、簡易の組織再編制度(要件に合致すれば、株主総会の決議は不要)が生まれた。また事業譲渡、会社分割にも簡易制度が設けられた。

会社法施行後においては、さらに次のように緩和された。(一部のみ掲載)

  • 対価の柔軟化(存続会社等の株式でなく、金銭その他の財産の交付が可)
  • 簡易組織再編の規模要件が5%から20%に緩和
  • 支配関係会社間での略式組織再編制度の新設
  • 異なる種類の会社間(例株式会社と合名・合資会社間)での組織再編可

その他、種類株式、新株予約権を用いた企業買収防衛策がより容易になる等、機動的かつ多様な組織再編が可能となるよう法整備が進められた。

効果的かつ慎重に

「M&A」のメリットは、新規に事業を起こす場合と比較すると、より具体的にみえてくる。即ち

  • 特許、技術面 そのまま受け継げる。
  • 人材面 知識、経験を持つ人材を受け継げる。
  • 信用面 既に構築済み
  • 設備面 既に存在
  • 販売面 既存の販売ルートをそのまま利用可

その他、補完関係による相乗効果、複数事業の組み合わせによるリスク分散等が挙げられるが、総括すると、「大幅に時間を節約できる」点に集約できよう。

しかしいざ実行となると様々な困難に直面することが多い。また成約までに通常1年程度、2年かかることもざらとのこと。最も重要なことは相互の信頼関係と秘密保持であり、特に株主、債権者、従業員への情報提供は慎重に慎重を重ねる必要がある。

企業の生き残り戦略として、あるいは積極的な事業展開に「M&A」は一考の価値があると考える。

(松下剛久)