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「不安」解消にビジネスの視点を

 「大地震が起きても大丈夫」― そう信じて何十年ものローンを組んで購入したマンションが、実は長屋同然の建物だったらどうだろう― 建設業界で発覚した一つの偽装問題が、いま各界に大きな波紋を呼んでいる。
 千葉県の建築設計事務所による耐震強度の偽装事件を目にしたのは、師走を間近に控えた十一月十八日のことだ。これまでの報道によれば、問題の建物は首都圏で二二棟。そのうち十数棟は震度五強程度の地震で倒壊の恐れがあるというのだから、どこの国の話かと耳を疑う。かつては日本のお家芸といわれた安全や高品質というコトバは、遠く霞むばかりである。
 ところで、「安全」に対する関心は健康意識の向上や表示偽装問題などを背景に、食の分野においても急速に高まりつつある。これまで比較的安全と思われていた農畜産物でさえも、BSE問題のほか、農薬や遺伝子組み換え、抗生物質の過剰投与など、その影響が十分に解明されにくい問題を抱えたまま今日を迎えている。ましてや、さまざまな分野で度重なる企業不祥事を目の当たりにしたとき、食の安全に対する国民の思いは複雑に揺れて当然である。 
 そうした中、不安や不満の中にこそビジネスチャンスがあると考え、その解消に向けた事業化への取り組みも活発化してきた。特にここ数年、組合組織による動きは顕著で、たとえば畜産農家と連携し安心でおいしい豚肉の流通を手がける食肉販売の組合やIT化によるトレサビリティーに着手した製造業の組合などは、新たなビジネスモデルとして大きな成功を収めている。またこの十二月、県中部で創立した製材業と林業による組合は、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)への対応を展望し、木材の品質向上に向けた乾燥・加工事業などを実施していく考えだ。
 これらをヒントに、消費者や取引先の不安・不満要因を徹底的に掘り下げ、組合の新事業展開を模索する上での参考にしたらどうか。

静岡県中小企業団体中央会・会長



中小企業静岡(2005年12月号No.625)