富士の叫び 
 特 集 
 「くみあい百景」 
 読者プラザ 
 編集室だより 




一流への道は身近なところに

 吉兆といえば知る人ぞ知る高級料理店である。その懐石料理は五万円とも、いや十万円ともいわれる。その吉兆の当主によると「料理のことを褒められるよりも、おたくのご飯はどうしてこんなに美味いのか」と聞かれることが多いという。高いおカネを戴いているわけだから、最高の銘柄米を厳選していることはもちろんである。
 しかし、私が興味を惹かれたのは、ご飯のうまさを演出しているのは、何十年の修行をした“有名な料理人”の技ではなく、ごく普通の人がだれでもできる、ちょっとした工夫をこらし、手を加えればできるということである。
 曰く「私たちは、決してまとめ買いをすることをせず、精米したばかりのお米をこまめに二〜三日置きに購入しています。」
 曰く「お客様が食されるタイミングを想定して、ご飯に火をつけています。」
 曰く「お焦げの好きなお客様には、ガス釜で炊くので、ちよっと火を強くして炊きあげてやることにしています。」
 曰く「ご飯をよそう時には、表面を薄くはいで端に寄せておいて、下の方からよそうようにしています。なぜなら下の方のできあがりが早いので、上のほうのご飯はよけておく間にほどよく蒸れるからです。」
 やはり業界一となるだけに、また普通のお店の何倍、いや何十倍かのおカネをとるからには、それなりの工夫や苦労をしているものだと納得もした。しかし、率直にいえば吉兆は大企業であり、値段からいってその程度の経営努力は、当たり前といえば当たり前である。
 思うに、なんといってもご飯が美味しいことは、どんな小さな食堂でも最も肝心なことではないか。私にはそうした地道な努力をしているお店が、まだまだ少ないようにみえて仕方がない。

静岡県中小企業団体中央会・会長 


中小企業静岡(2003年10月号 No.599)