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「秘湯の里」の挑戦



 大井川を遡り、背後に南アルプスを控えた山間(やまあい)の秘境の地に、今年開湯四〇周年を迎える「美女づくりの湯〜寸又峡温泉」がある。
 燃え上がる紅葉など豊かな自然景観と神秘的なエメラルドグリーンのダム湖に浮かぶ「夢の吊り橋」。肌にやさしい硫黄泉。
 三十数軒の住民は、この恵まれた資源をもとに旅館や土産物店、飲食店などを営んできた。自然回帰や秘湯ブームで、入り込み客は順調に推移してきたものの、宿泊客は平成二年の十七万人をピークに半減し、最盛期には二五軒あった旅館も大手業者の撤退や後継者難ゆえの廃業が相次ぎ十四軒にまでになってしまった。
 限られた力でどうやって現状を打開し魅力的な温泉地にするのか?
 その解決策の一つとして選択したのが、より強固な共同化による連携であった。
 みんなで知恵を絞り、未来への目標と夢を持ちたい―こんな強い意欲のもと、本会に相談に訪れ、活動母体の「寸又峡美女づくりの湯観光事業(協)」は平成十二年二月に設立された。
 早速、「寸又峡」の“新世紀マーケティング計画”づくりに着手。町や関係団体、専門家などと一緒に一年がかりで同地の現状と課題などについて議論を重ねた。続く十三年度には、本会や本川根町の補助事業を活用して、計画を具体化するための可能性調査に取り組んだ。CI導入として「もみじのシンボルマー
ク」や「のれん」の試作。県内各地での即売会を兼ねたマーケティング活動。新たな観光資源発掘のための地域植物や散策ルートの調査などを次々と展開。「日本一清楚な温泉保養地」をコンセプトとした短・中・長期のビジョンが出来上がった。
 これを受けて、十四年度に入るや、土産物や飲食の割引、プレゼントがセットされた「記念パスポート」や入浴サービスの「ゆらぎ手形」を発売。また、雰囲気づくりのための「のれん」や「ちょうちん」が順次各店の玄関を飾り始めた。
 このように、設立間もない組合がフレキシブルに動き始めているのを目の当たりにし、担当者として喜びを感じるとともに、その要因を考えてみた。それは(1)外部専門機関にお任せとなりがちのビジョン策定を「絵に描いた餅にしたくない」と、自らのものとして取り組んでいること(2)成果を上げようという組合トップの熱意とリーダーシップ、そして組合員の期待、そんな要素が機能し組織の求心力を高め、町や本会など多くの関係者を巻込んでいること(3)ネットワークの中に幅広く精力的に動く人材がいること、などであろう。
 今年は、さらに一歩進めて自然と観光の共生を目指した「パークアンドライド/ウォーク」の実用化実験も予定している。
 目指すのは、日本一と評されている九州・熊本の黒川温泉。夢の実現に向けて一歩を踏み出した「秘湯の里」の挑戦に大いに期待している。   (岸本)


中小企業静岡(2002年 8月号 No.585)