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「労務」 |
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専門家の眼
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「最近多い賃金を取り巻く質問について」
賃金カットの実施、誤った手当を支給…
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協同組合静岡人事労務研究機構
社会保険労務士 渡 邊 裕 文
〒417-0061 富士市伝法2484番地の11
TEL 0545-51-3838
Fax 0545-53-0016
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ここ数年、私の事務所に寄せられる賃金関連の質問事項で特に多い二つの質問について解説していきたいと思います。
具体的な解説の前に経営者や人事担当者に押さえておいて頂きたいことがあります。
それは次の「賃金支払い五原則」(労働基準法第24条)です。
(1) 通貨払いの原則
(2) 直接払いの原則
(3) 全額払いの原則
(4) 毎月払いの原則
(5) 一定期日払いの原則
人事担当者として賃金の支給で悩んだときは、この五原則に沿って考えますと答えが導き出されることが多いと思います。
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Q不況対策で賃金カットをしたいと考えていますが、一方的にすることができるのでしょうか?
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A先ず申し上げたいのは「労働契約は売買契約と似ている」ということです。労働者は労働力を売り、会社は労働力を買うという行為で成立しています。但し、最低賃金法で「最低賃金」が定められています(業種により多少異なりますが、静岡県の最低賃金は時間額671円、日額5,365円です)。
ということは、最低賃金以上の金額であれば賃金はいくらでも良いということにもなります。しかし、労働契約において労働力をいくらで買うということを明示し合意していま
すので、既に支払いが確定している賃金を一方的に減額することはできません。但し、将来に向かって賃金を減額することは可能になると思われます。その方法には次の二つの方法が考えられます。
(1) 労働者ごとに減額の契約を締結する。
(2) 就業規則等で賃金の条項を変更する。
(1) の方法は、労働者ごとに減額した賃金で労働契約を締結し直す方法です。減額対象者の選出(一部の労働者なのか全員なのか)や減額金額や割合、また、減額対象者との個人交渉をどのように実施するのか、合意が得られるのか等といった問題がありますが、あくまでも個人ごとに直接減額した賃金で労働契約を締結するため、締結後に問題になることは非常に少ないと思われます。中小零細企業が賃金減額を実施する際に最も多く採用している方法だと私は感じています。
(2) の方法は、就業規則等の賃金決定ルールを改訂する方法です。例えば家族手当の支給範囲が三親等までであったものを二親等に書き換えるというものです。原則として就業規則等の制定・改訂は労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者の意見を聴取し、労働者に周知するだけで使用者が一方的に行うことができます。しかし、この方法は一般的に「不利益変更」と言われ、この変更を行うためには「合理性」が必要となります。具体的には、不利益変更をしなけ
ればならない業務上の必要性と労働者が被る不利益の内容・程度を比べ、代償措置を設けたか否か、労働組合等と十分な交渉を行ったか否か等を総合的に判断し、合理性がないとこの変更は無効になってしまいます。更に、就業規則等の改訂のうち賃金・退職金等の不利益変更については「高度な必要性に基づいた合理的な内容」でなければ無効になってしまいます(大曲市農協事件、最高裁判決)。
(1) (2) のいずれの方法をとるにしても将来に向かって賃金を減額することは可能になると思われますが、慎重な対応が必要であり、一方的に賃金減額を行うことは避けるべきであると私は考えます。
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