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専門家の眼

平成19年度税制改正と中小企業等への影響

公認会計士 青木隆知
〒420‐0816 静岡市葵区沓谷6-17-1 パナハイツ沓谷101
TEL 054-264-6530 FAX 054-264-6531

Q 平成19年度税制改正の主な改正事項について解説して下さい。また、この中で中小企業等への影響も併せて教えて下さい。

A 平成19年4月1日より、平成19年度の税制改正が施行されました。今回の改正は減価償却制度の見直しを中心とした法人税関係が主で、その他の改正事項については、従来の制度の所要の整備と適用期限の延長見直し等から成っています。


1 減価償却制度の見直し

法人等が減価償却資産を取得し、事業の用に供した場合には、一定期間にわたって費用を期間配分していく減価償却制度があります。わが国の税制では、償却可能限度額と残存価額を定めて資産の種類に応じ原則として省令で定められた耐用年数期間に渡り定率法または定額法で償却しています。

今回の改正では、取得価額の95%として規定されていた償却可能限度額と10%の残存価額を廃止し、耐用年数経過時点で備忘価額として1円を残す処理をすることとなりました。

この改正の適用時期は平成19年4月1日以後取得使用する減価償却資産からで、平成19年3月31日以前に取得したものについては、従来の償却を行った後95%の償却可能限度額に達した後は、その後5年間に渡って均等償却できることとなっています。

設備投資型企業や、償却資産の占める割合が大きい法人では、この改正の影響も大きいことから、既存取得分については、5年間での均等償却の実施となっています。

主要な諸外国の減価償却制度においては、残存価額を0としていることや、資産の除却等の場合には、処理費用も必要となることなどから、検討され改正に至ったものとされています。

2 中小企業留保金課税制度の廃止

同族会社等の法人が事業年度の課税所得の一定額を配当や賞与などで社外に流出した以外の内部留保した所得については、本税の他に留保所得に追加課税されていましたが、平成18年度の改正でその要件が一部緩和され今回の改正により、資本金等が1億円以下の中小企業等の法人についてはこの制度が廃止されました。

3 特殊支配同族会社の役員給与の損金算入 限度額計算の改正

平成18年度の改正により導入された特殊支配同族会社の業務主宰役員の給与については、所定の条件の下で一定の計算により一部損金不算入とされましたが、その影響も大きく見直しの要請も出ていたことから、この規定の適用除外となる基準所得金額は以下のように緩和されました。

(1)同族会社の所得と損金不算入された主宰者の給与の合計額が直前3年間で年平均1600万円以下(改正前は800万円以下)であるとき
(2)会社の所得等の直前3年間の平均額が1600万円以上3000万円未満(改正前800万円以上3000万円未満)で、かつその給与の額の割合が50%以下である場合

4 リース取引関連

リース会計基準の変更に伴い、会計と税務の整合性を持たせるべく改正が行われました。リース取引の原則は賃貸借取引であるものの、賃貸借と売買取引、金融取引との区分判別が困難な取引も多く複雑化していました。所有権移転外ファイナンス取引については売買取引と例外的に賃貸借取引に準ずる取り扱いが認められていましたが、今回の改正により、所有権移転外ファイナンス取引はすべて売買取引とされることとなりました。これに伴い、賃借人が賃借料としての経理処理は、これからは償却費として取扱処理されることとなっています。

この改正に伴い所有権移転外ファイナンス取引については特別償却制度の適用除外、リース税額控除の廃止等も盛り込まれています。

消費税については、特に触れられていませんが、リース契約内容によっては従来賃借側で賃借料として課税取引とされていたものが、償却費とされたことにより、課税取引から除外される取扱になるものと思われます。

5 エンジェル税制の期限延長と改正

ベンチャー企業育成のためとられている税制上の恩典の見直し延長が行われました。特定中小企業としての要件が一部緩和され対象企業としの事前確認制度の導入が図られました。この特定中小企業が発行した株式の譲渡所得についての特例措置が2年間延長されています。これらのことから、ベンチャー企業への投資環境が整備され、資金調達が容易となり投資活動が活発化されることが期待されています。

6 地域産業活性化支援税制

青色申告法人が企業立地促進法に関する法律の規定に基づいて同基本計画に定められた産業集積区域内に一定の機械装置や工場用建物等の取得をして事業の用に供した場合には普通償却の他にその取得価額の100分の15相当額(建物は100分の8相当額)の特別償却ができることとなりました。

7 中小企業基盤強化税制等

青色申告法人である特定中小企業者等が一定期間内に事業基盤強化設備を新規取得し事業の用に供した場合には特別償却または税額控除ができることとなっていますが、一定条件の機械を対象範囲に含めることとされるとともに適用期限が2年間延長されました。

8 その他の改正

以下のような項目の改正や期限の見直しが行われております。

(1)上場株式等の配当に係る軽減税率(10%)の特例延長
(2)上場株式等に係る譲渡所得の軽減税率(10%)
(3)一定条件の下で自己株式を贈与した場合の相続時精算課税制度の拡充
(4)寄付金控除の控除対象限度額の引き上げ
(5)配当優先無議決権株式等の種類株式の評価方法の明確化
(6)生命保険料控除対象保険契約の範囲拡大
(7)住宅ローン税額控除制度
(8)住宅バリアフリー改修工事にかかる住宅ローン控除制度
(9)居住用財産の買替え特例
(10)居住用財産の譲渡損失にかかる特例
(11)電子申告関係

今後の展望と課題

昨年までの改正は個人所得税の負担の見直しを中心として行われてきましたが、今年の改正では懸案であった減価償却制度の見直しが行われています。償却制度については、現状に即さないいくつかの問題点が指摘されてきましたが、技術進歩の著しい現在では、物理的減耗に比し、陳腐化したことによる機能的減価は著しく特に電子関係資産を中心とした会計処理や耐用年数の見直しが求められるところです。

会社法、組合法等の相次ぐ改正により、会計税務を取り巻く環境は大きく変化しており、景気が上向いてきたとの観測から消費税の見直し改正も検討されていくものと思われます。