特 集 
 「くみあい百景」 
 編集室便り 



 指導員の現場から
空き店舗対策一考
マッチング支援で
店舗流動化を



IQ一八〇の商店街診断

 だいぶ前の話になるが、一年間、東京で研修生活を送ったことがある。そこで知り合った研修生に、昔は神童だったという銀行マン、Mくんがいた。
 IQは一八○を超え、高校サッカーでは、国体代表選手。Jリーグのサンフレッチェ広島に内定したものの、靭帯切断で泣く泣く今の職に就いた御仁である。
 年は、私より五つくらい下。「わしゃー、そういう考えは好かん」とコテコテの広島弁を使い、相手が誰であれ持論を押し通すかなりの自信家であった。
 そのMくんと私は、たまたま同じ研修チームに所属し、ある商店街の診断を担当することになった。私鉄駅からは近い立地だけれど、大通り商店街の裏通り的存在。人通りは少なく、空き店舗もかなり目だつ。   
 組合の理事長は「組合員に話を聞いてみると、廃業したい人は相当いる。店を売りたい、という声もある。でも、会議になると、互いに牽制しあって本音を話してくれない。共同事業?
こんな状態で何を?」と打つ手なしの様子だった。
 その三時間後。対策を練ろうと宿泊先の研修室に戻るや、Mくんは「答えは出とる。悩むことないけぇ」と説明を始めた。要約すると次のような解決策である。

店舗流動化で商店街改造

 まず、現状把握のために組合員全員にアンケート調査をする。例えば、店を売りたい人、貸したい人の店舗面積・売買条件・賃貸条件・その予定時期など可能な限りの不動産情報を集め、これをデータベース化する。
 次に、業者や指導機関、銀行等に広く情報開示し、入居希望者への斡旋を依頼するというもの。店舗の流動化をはかることで、商店街を活性化させようという持論である。彼は続ける。
「店主は高齢化し、後継者はいない。そんな中で、やる気を出せとか共同意識を持てと言っても始まらん。それよりも、まず廃業にまとわりつく負のイメージを捨てさせる。そして店舗を資産として捉え、ビジネスとして売り買いできるシステムをつくりゃあいい」。
 …チームの意見は分かれた。現実を無視している、実現可能性は少ない、とも。
 しかし、仮にこのシステムが実現するならば、間違いなく一社ではできないメリットがある。例えば、データ収集の結果、軒続きの三店舗に廃業の意思があることが判明したとする。そこで、バラではなく三軒のまとめ売り情報が出せる。仮に、好立地の出店を物色する中堅スーパーが当該物件を買取り、商店街の核店舗として繁盛するならば、街全体のイメージアップや集客効果をもたらす。点ではなく、面整備による商店街改造ができるわけだ。
 Mくんは言った。「商店街は流行らんという声があるが、条件次第ではそこで商売をやりたい人はいくらでもおる。あとは、売り手と買い手のマッチングをどうするかじゃ。互いの情報が見えにくいけんのう」。
 そんなMくんの意見、とても刺激的でした。
(矢部)



中小企業静岡(2004年12月号No.613)