本誌の表紙を飾っている水彩画の評判がすこぶるいい。今月号は宿場で名高い三島駅、前月号は天龍川の掛塚橋が描かれている。ごらんのように、昭和二〇年代から四〇年代にかけての県内の懐かしい風物が近藤至弘さん(静岡市在住)の温かみのある筆致で詩情豊かにつづられている。
絵で見る本県の佳き戦後史で、原画を欲しいという読者の声も多い。かく言う私もそのひとりであるが…。それにしても一枚いちまいを観察してみると、いろんなことに気づくし、考えさせられることも多い。
たとえば、三月号の大天竜に掛かる木造の掛塚橋は、現存する最も古い木橋の一つとして貴重な存在となっている大井川に掛かる蓬莱橋(通称・賃取り橋)と見まがう程似ている。
絵は橋の中ほどをいかにも旧型の乗合バスが一台だけ走り、その前後に自転車や徒歩の人々が移り、土手には“負んぶいばんてん”に幼い子を背負った親子が描かれている。
私は想う。いまと比較すれば随分と不便ではあるがそれ以上に「あのころは良かったナ」そんな思いが強い。
いまや世の中は、安ければいい、早ければいい、効率が高ければいい、強ければいい…。つまり市場経済至上主義がすべてに優先している。もちろん経済のグローバル化のなかでは、避けて通れないことは当然であると承知はしている。
しかし、一〇〇兆円の大銀行の誕生もいいが、われわれにとっては何千億円の銀行や信用金庫がたくさんあることの方が大切であることは論を待たない。
政治が不信、大蔵省もダメ、肝心要の警察幹部もあのていたらく…、そんな世相のなかで小さなコト・弱いコトを再確認すべき時ではないか。
そんなに急がないで、足元をシッカリと見つめ、時には古きよき時代のように生きていくことを、表紙の絵が教えてくれているように思えてならない。
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