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特集

ここに着目 組合決算のツボ

剰余金処分(損失処理)

組合は、定款で定める額に達するまで、毎事業年度の剰余金の10分の1以上を利益準備金として積み立てなければならないとされ、その額は出資総額の2分の1を下ってはならず、損失のてん補に充てる場合を除いては、取り崩しはできない。

さらに、教育情報提供事業を行う組合は、その事業の費用に充てるため、毎事業年度の剰余金の20分の1以上を翌年度に繰り越さなければならない。これは、教育情報費用繰越金と呼ばれ、組合員に対する教育や情報提供事業が極めて重要であることを考慮して特に定められている。

「毎事業年度」の剰余金とは、その事業年度に発生した収益と費用との差額を意味し、前期繰越利益は含まないので注意が必要だ。これは、もし前期繰越利益を加算すれば前年度既に準備金積立ての対象としたものに対して、2重に対象とすることになるからである。

前期繰越損失がある場合は、まず前期繰越損失をてん補しなければ、他の処分ができない。したがって前期繰越損失をてん補してなお残額があるときに限り、所定の規定によって処分を行うことができる。

また、定款の定めや総会の決議により、剰余金を任意で積み立てることもできる。

以上のように、欠損をてん補し、利益準備金と教育情報費用繰越金並びに定款に定める任意積立金の積立てを行った後ではじめて剰余金の配当を行うことができる

剰余金処分案は、その事業年度において発生した剰余金をどのように処分するかを決める書類で、通常総会に議案として提出され、承認を受け処分が決定すれば、総会の日の日付をもって経理処理を行う。

当期が未処理損失の場合は、損失処理案とし、次期に損失を繰り越すこともできるが、次年度以降の利益で解消できる見込みがないときは、定款に定める順序に従い、任意積立金、利益準備金、資本準備金を取り崩しててん補することが望ましい。

なお、剰余金処分案とするか損失処理案とするかは当期が未処分利益か未処理損失であるかによって定まる。つまり、前期繰越損失が、当期利益を上回り差引で当期未処理損失となれば損失処理案、前期繰越利益が当期損失を上回り、差引で当期未処分利益となれば、剰余金処分案となる。

当期利益や当期損失のいろいろなケースを想定し、図示したのが図表4.である。

Aは前期、当期とも利益が出ているケース。Bは当期未処分利20をもとに積立ておよび繰越しを行う例。Cは当期未処分利益がゼロだから積立てなどを行わなくてもよい。DやEは、当期損失であるため積立てなども不要。Fの場合は、当期利益は100だが前期繰越損失が130計上されており、当期未処理損失30を処理するため、損失処理案を作成することとなる。

図表4. 剰余金処分と損失処理の区分

教育情報費用繰越金

前述のとおり、教育情報事業を行う組合は、その事業の費用に充てるため、毎事業年度の剰余金の20分の1以上を翌事業年度に繰り越さなければならない(中協法第58条4号)と定められている。

この教育情報費用繰越金は、剰余金の処分によって計上されるものであり、教育情報事業のための使用という一定の目的のために留保した利益剰余金であると言える。

しかし、法の趣旨は、組合に剰余金が生じた場合、必ずその一定部分をその後の事業年度で組合における教育情報事業の費用に充てさせ、教育情報活動を充実させようという点にある。このため、教育情報費用繰越金は使用されることが前提となっており、他の積立金のように毎年積増しできるものでもなく、損失のてん補に充てることもできない。こうした意味からすれば、教育情報費用繰越金の会計的性格は、負債性引当金に類似したものとなる。

このように教育情報費用繰越金は、利益剰余金と負債性引当金との両方の性格をもつが、中協法規則では、純資産の部に属するものとし、その他の利益剰余金の項目に「教育情報費用繰越金」を設けている。

教育情報費用繰越金は、原則として次年度に取り崩されるので、期末に残高がなく貸借対照表に計上されないのが通常だが、仮に、使用残額があれば、貸借対照表の純資産の部に掲記しなければならない。

取り崩したときの取崩額は組合会計基準では、勘定科目表の「収益勘定」における「教育情報事業収益」に属することとしている。事業別損益計算を行わない組合の損益計算書では、教育情報事業収益の内訳の「教育情報費用繰越金取崩」として経常収入項目に取り扱われ、事業別損益計算書を必要とする組合(図表3.)では、「その他事業収益」の内訳に「教育情報費用繰越金取崩」として表示される。

教育情報費用繰越金は税務上、前期課税済の所得の中から積み立てられた積立金であるので、その戻入れによる利益は益金不算入となる。

事業利用分量配当金

組合が行う事業は、組合自体が直接に利益を得ることを目的とするものではなく、その組合員の行う事業の利益を増進し、その経済的地位の向上を図ることにある。したがって、共同事業によって得た利益はこれをまず、その組合と組合員との取引の分量に応じて分配することが好ましい。

中協法では、「組合の剰余金の配当は、主として組合事業の利用分量に応じてするものとし、出資額に応じて配当をするときは、その限度が定められていること」(中協法第5条4号)と定め、組合の要件の1つとしている。

税務上、協同組合等が各事業年度において支出する次の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することになっている(法人税法第60条の2)。

  1. その組合員その他の構成員に対しその者が当該事業年度中に取り扱った物の数量、価額その他その協同組合等の事業を利用した分量に応じて分配する金額
  2. その組合員その他の構成員に対しその者が当該事業年度中にその協同組合等の事業に従事した程度に応じて分配する金額

利用分量配当金は、組合員が組合に支払った事業取扱手数料等の割戻しに相当するもので、決算にあたっては、これを剰余金処分案で計上して、総会の承認を受けることとなっている。

利用分量配当を行うためには、事業別損益計算が実施されていることが必要で、1つの事業についての利用分量配当は、その事業によって生じた利益の範囲内において、組合と組合員との取引の量に応じて分配することが必要だ。

法人税法上、利用分量配当は損金の額に算入することとなっているが、損金算入ができる分配は、その剰余金が組合と組合員との取引やその取引を基礎に行われた取引で生じた剰余金から成る部分の分配に限られる。このため、固定資産の処分等による剰余金や組合員の利用がないと認められる事業(自営事業)から生じた剰余金のように組合員との取引に基づかない取引による剰余金の分配は、該当しないから注意する。

この利用分量配当に該当しない剰余金の分配は、組合員に対する出資配当金に該当する。したがって、損金算入の適用を受けるためには、組合員との取引によって生じた剰余金と、そうでない剰余金とを区分する必要があり、会計上明確に区分されていないと適用が受けられないことがあるので十分に注意しなければならない。

また、員外利用がある事業部門の組合員以外の者との取引による剰余金部分は、事業利用分量配当金の対象とすることができないので売上高などによって、按分計算を行って除外する。

配当の方法は、組合員が当期に組合の事業を利用した分量に応じて事業の種類別に一定の率で行う配当に限られ、同一の種類として区分した事業の中で利用量の多寡によって率に差を設けることは許されない。

このため組合は、組合員の利用度を明確に把握し、算出根拠を明らかにする必要がある。

以上のように、税法上、損金算入が認められる利用分量配当金の条件が厳しいのは、税法が特に協同組合という性格を考慮して、特例を設けているためである。この特例は原則として確定申告書に損金算入に関する明細の記載がある場合に限って適用される。

組合は利用分量配当金の支払にあたっては、源泉所得税を徴収する必要はなく、損金算入の取扱いを受けた部分は、支払を受けた法人組合員の側では益金算入しなければならず、受取配当金の益金不算入の対象とすることはできない。

一方、組合員が個人事業者である場合は、組合が損金算入とした利用分量配当金は事業所得の収入金額となり、組合が損金不算入としたものは配当所得となる。

組合によっては、剰余金の処分としないで割戻し等の名称で組合員に還元する例もあるが、この場合は、組合で妥当な割戻し基準を定め、損金経理によって支出していれば、損金算入が認められる。

なお、企業組合の従事分量配当は、損金算入が認められず通常の利益配当として取り扱われるので、配当にあたっては20%の源泉徴収を行う必要がある。また、企業組合の出資配当以外の配当も、損金算入が認められず通常の利益配当となり、同様に取り扱われる。