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特集

8割を超える企業が震災対策未定

本会が昨年10月に県内30団地とその組合員574社を対象に実施した「地震防災対策・事業継続計画に対する取組の現状に関するアンケート」によると、経営者が関与した大規模地震対策の基本方針が「定められた」とする企業は12.0%。「作成中」とする6.3%を合わせても全体の二割に満たず、八割を超える企業で大規模地震対策への基本方針が定められていない。

この傾向は企業規模が小さくなるにしたがい顕著となり、100人以上の従業員規模では、半数の超える52.9%の企業で「定められた」または「作成中」であるのに対し、6人未満の従業員規模では、僅か2.5%に止まっているのが現状だ。

BCPに積極的に取組む組合・企業

こうした中、積極的にBCPに取組む組合・企業も少なくない。ここでは、富士市浮島工業団地協同組合と株式会社ミダックの取組みを紹介する

富士市浮島工業団地協同組合 (富士市・杉山清理事長)

団地のメリットを活かし組合員が一体となり定期的な防災研修や訓練を実施。組合員の防災意識は確実に高まっている。

21万平方メートルを超える総面積を誇り、製造業を中心に31社が集積する当組合は、その名称が示すように、かつて沼であった土地を埋め立てて造成した工業団地だ。しかも海抜は0メートル。地震による液状化現象や津波による大きな被害が予想される。

こうした立地に位置する危機感から組合では平成16年、中小企業活路調査・実現化事業を活用し、災害時の危機管理システムの構築に着手し、地震防災計画を策定した。

同計画の基本的取組みは、平常時の対策、地震防災応急対策、災害応急対策、災害からの復旧対策の4つのステップを通じ、「安心・安全な工業団地づくり」を目指していこうというもの。

その具体的な取組みとして、真っ先に立ち上げたのが組合自主防災組織だ。同組織は、本部長である防災委員長をトップとする防災本部を設置し、全組合員が情報班、設営班、防災班、救護班、避難誘導班の五班に所属。企業の枠を超え、団地全体で人命の安全確保、二次災害防止、速やかな復旧を図っていく考えだ。

「団地には一家の大黒柱が働いている。彼らの生命を守ることが組合防災組織の第一の目的」と杉山理事長は、団地内の従業員1250名の安全確保を最優先に掲げる。

加えて、定期的な防災教育・訓練の実施、食糧・飲料水・医薬品などの備蓄、「津波避難マップ」の作成、防災設備・機器の保有や管理、さらに専門家を活用した組合員企業の防災マニュアル策定支援など災害に対する日頃からの備えに力を注ぐ。

こうした団地組合のメリットを活かした取組みにより、自社工場の耐震補強や飲料水などの備蓄率の向上など、組合員の防災意識は着実に高まっている。

組合では、

「被災時、一刻も早い復旧を、と願うのは経営者であれば誰もが考えること。しかし、BCP策定など具体的な行動を起こすに至らないケースが多い。組合ではこうした取組みへの後押しを地道に粘り強く続けていきたい」と組合全体での防災対策を強力に推進していく構えだ。

関連リンク

富士市浮島工業団地(協)

株式会社ミダック (浜松市・土井政博社長)

(株)ミダックが今年3月に策定したBCPの表紙。ここに災害時の事業継続ノウハウが詰まる。

産業廃棄物等の収集運搬や処分、リサイクル業を主事業とする同社がBCPに取組んだきっかけは、関連法令遵守や収集運搬中の事故防止など危機管理の一環としての位置づけからだった。中小企業BCP策定運用指針(後述)を参考にBCPを導入したのは今年の3月。その柱は三本から成る。

第一の柱は、従業員の安全確保だ。警備会社と提携し従業員の安否確認システムを今年の初めに導入した。同システムは、同社の営業所が管轄する北関東から関西地域で震度五弱以上の地震が発生した際、全従業員の携帯電話に安否確認のためのメールが自動配信される。それを受け、従業員は本社にメールを返信。本社のパソコンで、全従業員の安否が確認できる。すでに当該地域では数回の地震が発生しており、同システムの効果は実証済みだ。

第二に顧客の生産活動などに悪影響を与えないため、他地域の同業者との間に災害時相互応援協定を締結した。これは、本社から遠隔地の同業者と協定を締結し、自社機能が復旧するまでの間、業務を委託することで、顧客へのサービスを低下させないことが目的だ。いわば、ゆるやかなネットワークを構築し、リスク分散を図っていこうというもの。

浜松市東区にある本社社屋。災害時の地域住民へのサポート拠点としても期待される。

同協定は、すでに福島県の同業者との間で締結され、さらに関西や北陸の企業との間にも協定締結のための調整が進む。

三本目の柱は、地域への貢献である。自社敷地内の井戸水や備蓄してある非常食の供給を通じ、被災した地域住民をサポートするとともに、静岡県の災害ボランティアコーディネーター養成講座を修了した社員二人を災害ボランティアコーディネーターとして配置し、地域を守る考えだ。

同社のBCP実務責任者である山口晃生常務は、

「BCPには完成はありません。常にその精度をアップさせ、非常時への備えを怠らないことが必要です。そのため、当社では社員一人ひとりの防災意識が重要であるとの考えのもと、地域の防災訓練への参加などを積極的に推奨しています」と全社一丸となった取組みをさらに進めていく。

関連リンク

(株)ミダック

中小企業BCP策定運用指針と静岡県事業継続計画モデルプラン

中小企業庁が作成した中小企業BCP策定運用指針のHP。この指針に沿って作業を進めることで、企業自らBCPを策定し運用することができる。http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/

中小企業BCP策定運用指針は、中小企業へのBCPの普及を促進することを目的に、中小企業庁が作成したもので、中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定や継続的な運用の具体的方法が、わかりやすく説明されている。この指針に沿って作業を進めれば、企業自らBCPを策定し運用することができる。

http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/

 

静岡県事業継続計画モデルプランは、前述の中小企業庁BCP策定運用指針を基に、静岡県が浜松地域の中小製造業を想定し、内容の追加・変更を行い、県内中小製造業が、「より身近でより具体的な」情報として感じてもらえるよう作成したモデルプランだ。

http://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-520/bcp/bcpindex.html