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ヒト使いの妙手 信玄公に学べ

 平月二五日で、JR尼崎脱線事故からちょうど一カ月が経過した。この痛ましい惨事により百七人の尊い生命が断たれ、負傷した五百四十九人のうち百三十九人は今も入院中という。遺族や負傷者、マンション住民への精神的なケアも欠かせないが、これを教訓として、安全重視と再発防止へどうつないでいくかが問われている。
 それにしても、連日テレビやメディアを賑わした社員や幹部、関係者等の無責任な言動には怒りを通り越し、虚しささえ覚える。綱渡りといわれる「過密ダイヤ」、運転手に強いられた定時運行、事前に頻発していたトラブル。今回の最悪のシナリオは、安全よりスピード、企業利益優先の帰結として発生したともいえる。いずれにせよ、この事件によりヒトや組織の行動を律する企業風土の重要性について、改めて考えさせられた。
 バブル崩壊を機に、産業界ではリストラや合理化に大儀を借りた強引なまでの人員削減が行われてきた。幹部は利益向上に必死で、社員は自身の立場を守るのに精一杯。多くの企業で職場や仲間に対する信頼感の欠如を生み、モラル低下への悪循環に陥っているのではなかろうか。
 では、こうした病巣を断ち切る処方箋とは何か。そのヒントを求め古の時代に遡ると、情を重んじたヒト使いの妙手、武田信玄公に行きあたる。人材活用・能力開発などに言及した名言・名句は多く、中でも“人は石垣人は城…” は、あまりにも有名だ。大小様々な石が積まれた石垣のように、人の組織も個々の特性や能力を活かした十分な組織力を発揮しなければならないという教えである。その前提として、個々が心を通わせ互いに協力する団結を重視。また、人の心を結ぶには何が必要かといえば、それは情であり人間性の尊重、仲間を思いやる心と説いている。
 この考えは、協同組合の基本原則である“相互扶助”“人的結合体”の精神に通じるものである。いつの世も組織を活かす要諦として、我々は肝に銘じなければならない。

静岡県中小企業団体中央会・会長



中小企業静岡(2005年6月号No.619)