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・・・経営 経済
「不気味な年の発想」
従来型ではない発想の転換が必要
(株)大和シンク・エージェンシー
取締役社長 石 橋 達 也


 新年、一月は各業界や団体の「賀詞交歓会」が行われる。
 「ゆるやかな景気回復」(政府)とはいわれていても、実感として閉塞感の漂う昨今の景況のせいか、今年の交歓会は単なる挨拶のそれではなく情報収拾のための会話が多いのを感ずる。
 当中央会の井上会長のご挨拶の中に、「今年は不気味な年となりそう……」という言葉を聞いた。
 不気味で、二一世紀に向けての未知の動きが胎動しているのを感じられるからであろう。
 今までと異なる、二〇世紀的発想でないものが求められている。
 賀詞交歓会の進行方法にしても、地元選出国会議員先生方を始め県議や市議の先生方の延々と続く従来型の賀飼交歓会もあれば、伊豆で行われた某工業組合のそれは、中小企業にとって今年の焦眉の急対策である週四〇時間制導入対策といった研修会を主眼とした賀飼交歓会もあった。
 演壇にたち、参加者の真剣さがひしひしと感じられる。
 単なる時短の法律的解説や説明の段階ではない。
 年間一〇五日の休日を設定し、その上二〇日にも及ぶ年次有給休暇を設ければ、現状より稼働日数は極端に減少する。発注先の納期期限は動かない。とすれば対策は増員以外にはない。しかし、それはただでさえ人件費率の高まりの昨今、より収益を圧迫する。時短管理を必要としない一人親方の下請け制度を検討すれば、発注先からは安全責任の上からも拒否される。
 そんな腹背に刃を突きつけられた状態の中での中小企業の週四〇時間制導入に関する質疑応答の「賀詞交歓会」は、ニコニコ・ヤアヤアの笑顔談笑ではなく真剣そのものである。
 賀詞交歓会の実体も内容は随分と変化してきている。
 やはり、「不気味な時代」には従来型ではない発想転換が必要である。
 今年から新規学卒者の採用に関する「就職協定」が廃止される。
 考えてみればこれとても二〇世紀的発想の「規制」そのものである。
 「皆で渡れば怖くない」というビートたけしの言葉ではないが、一斉にお互い横を見ながらの採用競争をやってきた。それでもチャッカリと抜け駆けの巧名で採用するところが後を絶たない。守れないのなら廃止を…というのが表面的な理由であるが、実のところ、そうした一斉に皆と同じことをやる時代ではなくなってきたからであろう。
 静岡市の某宝飾会社では春の新卒採用方式を昨年から廃止し、「通念採用方式」に切り換えている。必要な時に必要な人材を必要な数だけ採用するというオン・デマンド方式である。
 第一、最近では大企業でも新規学卒入社から定年まで勤務する社員の割合が減ってきている。一人前に育てる期間ロスも大きい。年功制の人事や賃金にも限界が見えてきている。
 だから新規学卒採用のウエイトが軽くなっているのである。
 まして、諸制度が未熟な中小企業にあっては定年六〇歳までの三八年間を見越した人事制度や賃金制度が上手くとれるはずがない。
 「不気味な時代」人事・賃金・労務にも視点をかえた新しい発想の取り組みが必要となってきた。
 多様雇用形態、成果主義的賃金・賞与・年俸制・中途採用方式など。

中小企業静岡(1997年 2月号 No.519)