シリーズ
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静岡県地震防災安全対策事業協同組合
 
 
実効ある防災対策の普及に力を入れる

 

〒422-8036 静岡市敷地1-24-8
TEL 054−283−3735


阪神大震災の教訓を活かして

 日本中を震撼させた阪神淡路大震災から三年余り。組合でも災害時の救援活動を共同事業の中に取り入れる事例が増えている。
 こうした中で昨年十二月に設立されたのが、今回ご紹介する静岡県地震防災安全対策事業協同組合。家具の転倒防止など、地震防災に関わる業務を行う七社で活動する。
 組合の岩瀧理事長は三年前まで神戸市に在住。自身も被災するとともに、六、四三〇人もの犠牲者を出した震災の惨状を目の当たりにしている。
 その後、この教訓をいかした事業を行おうと静岡に移り住む。
 「地震対策の先進県と言われる静岡で勉強し、お手伝いをしようと考えていました。しかし、来てみると地震対策の専門業者もなく、まだまだやらなければならないことが多いというのが実感でした」(岩瀧理事長)
 そこで自ら転倒防止器具の製造・取付の事業を始め、県内の幼稚園などの教育施設を中心に施工を行うようになった。その後、こうした活動に賛同した中小企業者が岩瀧理事長のもとを訪れるようになり、これらの企業とともに施工業務の研修などを行う中で、組合を設立することとなった。
▲ピアノ用の転倒防止器具


着脱も簡単な転倒防止器具

 主な事業は共同受注。特殊金具を使った家具の転倒防止や特殊フィルムによるガラスの飛散防止など、地震防災に関する施工業務を請け負う。
 他の組合員の業種は防災用機器小売業などさまざまだが、共同受注した業務を行う部門を設け、責任施工を行える技術も備えている。
 「地震が起こった時に最も危険なのは、家具やガラスの破片に直撃されること。阪神大震災の犠牲者の八割は、室内にある物が凶器となって命を落としたんです」(同)
 阪神大震災では、ピアノやテレビが数 も飛んで壁を突き破った事例が報告されるなど、その危険性は想像を超えている。
 「こうした被害を防ぐためには、市販されている転倒防止金具を買い、自分で取り付けても不十分。専門業者に依頼する必要があります」(同)
 組合が扱う転倒防止器具の特徴の一つは、着脱が簡単であること。
 「一般の方は地震対策のために`家具を固定するaというと、その家具はその場所から移動できなくなってしまうと思われているようです。しかし我々が扱う商品はワンタッチで取り外しや取り付けができるんです」(同)
 例えば写真のピアノ用の転倒防止器具。しっかりと床に固定され、地震が起きても動かないようになっているが、女性の手でも簡単に取り外せるため、ピアノの移動は自由にできる。
 組合では今のところ、学校などの公共施設を中心に受注しているが、民間企業や一般家庭からの相談も受け付けている。
 まだ活動を始めて三カ月だが、すでに二〇以上の市町村から受注するなど、滑り出しは順調である。

本当に必要な地震対策とは


 組合がもう一つ力を入れるのは、地震防災のあり方について行政機関などにPRすること。
 「これまで県内で行われてきた地震対策は、避難所の指定、医薬品や食糧の備蓄、救護活動といった`災害後対策a。被害をいかに減らすかという
 防災対策 は不十分だと思います」と岩瀧理事長は指摘する。
 「多くの犠牲者が出た阪神大震災ですが、もし早朝ではなく昼間に起こっていたら、公共施設内でも備品の転倒やガラスの破片でもっと多くの死傷者が出ていたはず。こうしたことに目を向け、学校や公共施設の備品を固定するなどの防災対策を考えていただきたいんです」(同)
 組合ではこうした考えを普及するため、三月十二日に創立記念講演会を開催。地震判定会の溝上恵会長の講演などを行うとともに、岩瀧理事長から地震防災の必要性を訴えた。
 講演会には県内各市町村の行政担当者を中心に約一八〇人が詰めかけた。反響も大きく、各方面から理事長への講演依頼も相次いでいるという。
 「地震対策のあり方について、関係機関の皆さんにご理解いただき、実践していただくまでには時間が掛かると思いますが、地道に訴えていきたいと思います」と岩瀧理事長は語る。
 なお、組合では地震防災の無料相談窓口を設けている。問い合わせは、〇一二〇-六七六二一一まで。
▲一八〇人が詰めかけた講演会

中小企業静岡(1998年 4月号 No.533)